正規軍と準軍事組織が武力衝突したアフリカ北東部スーダンから、在留邦人が自衛隊機などで国外へ退避した。
激しい戦闘が続いた首都ハルツームで希望していた邦人全員の退避が完了した。政府は今後も、退避希望者らの支援にあたる。
危険な現地で奔走した大使館や統合任務部隊を編成して任務を遂行した自衛隊などの関係者の労苦に感謝したい。
ハルツームからスーダン東部のポートスーダンの空港まで多くの邦人が陸路で移動し、航空自衛隊機で自衛隊の拠点があるジブチへ飛んだ。スーダン北部の空軍基地から、仏軍機で出国できた邦人もいた。
岸田文雄首相は、大使館や自衛隊などの努力を称(たた)え、日本に協力したフランス、韓国、アラブ首長国連邦や国際赤十字、国連などに謝意を表した。
一昨年8月のアフガニスタンからの邦人退避では、政府の準備と決断が遅れ、自衛隊機を派遣したものの、国外へ移送できた人数は諸外国より少なかった。その反省から、現地情勢悪化を受けて迅速に対応したことは評価できる。
政府は、引き続き在留邦人支援に努めるのに加え、今回の退避劇を検証し、改善すべき点を見つけ出してほしい。
邦人の陸路移動は東京―岡山間よりも長い約670キロに及んだ。事故や襲撃による死傷者が出なかったのは幸いだった。自衛隊は初の陸上輸送の検討を行った。脱出が急がれたことや首都の遠さから陸自が進出、護衛して移動するのは困難だったかもしれない。
ただし、米軍は海軍の艦船をスーダン沖に展開させた。無人機(ドローン)を飛ばして米国人が加わった車列の移動を見守った。自衛隊も新しい装備を導入し、邦人保護にも積極的に活用してもらいたい。
自衛隊は、自衛隊法第84条の4「在外邦人等の輸送」に基づき派遣された。派遣先の国の同意が実施要件である。今回はスーダン政府が存在しているため支障はなかったが、現在の法制度では、破綻国家が極度に混乱して政府が瓦解(がかい)すれば、邦人を退避させたくても自衛隊派遣を試みることさえできない。
今のままでいいわけがない。人道を尊重し、国民の命を守る国へ一層の改革が必要だ。