作業中にロボットから褒められた人はパフォーマンスが上がり、他者を褒めるようになるとする論文を同志社大学の研究チームが発表した。ロボットを起点にした“褒め”の循環が社会に好影響を与えるとしている。一方、ロボットから不安を煽るような意見を聞かされると、パフォーマンスは向上するが他者を褒めなくなる傾向がみられた。人間と同じような会話ができる人工知能(AI)技術が急速に発達するなか、重要な知見だと言えそうだ。
研究チームによると、誰かに褒められることは社会的報酬であり、その相手がロボットやCGキャラクターでも効果があるという。ロボットが褒めた場合でも煽った場合でも、短期的には人間のパフォーマンスが上がることが先行研究で分かっているが、人間が受ける心理的な変化などについては研究が進んでいなかった。
ロボットに褒められた人は他者を褒めるようになる、と仮説を立てた研究チームは、男女24人ずつ合計48人(平均年齢40.2歳)を対象に実験を実施。男女が同数になるように3つのグループに分けて、パソコンでドラッグ・アンド・ドロップを繰り返す作業を6分間行ったときに、それぞれのグループが「丁寧」「無礼」「中立」のコメントを聞かされた際の変化を調べた。音声コメントは卓上サイズのロボットから、30秒ごとに合計12回再生された。
「丁寧」グループは作業中、「パフォーマンスが良い」「(実際のパフォーマンスには関係なく)前回より早く作業できている」などの励ましのコメントを聞かされた。「無礼」グループへのコメントは「パフォーマンスが悪い」「(同)前回より作業が遅い」などの、やる気を削ぐような内容だった。「中立」グループには作業の進捗状況を伝えるコメントだった。
6分間の実験を前半と後半に分けて分析すると、「丁寧」と「無礼」のグループでパフォーマンスが有意に向上。「中立」でもやや向上していたが、研究チームは有意差はないと判断した。また、「無礼」のグループは実験の前後で不安感が増加することが分かった。
この実験に続いて、今度は参加者が“ロボット側”の立場になり、別の参加者が行う作業に対してコメントを送った。実際は「別の参加者」は存在せず、本人が作業したときの映像を見せて「丁寧」「無礼」「中立」のうちどのコメントを選んで送るかを調べる実験だった。
参加者が“ダミー参加者”に送ったコメントの割合を調べると、最初の実験で「丁寧」グループだった人は「丁寧」が70%を上回り、「無礼」はほとんどなかった。「無礼」グループだった人のコメントは「丁寧」が60%未満で「無礼」が10%超、「中立」グループだった人は「丁寧」が50%台で「無礼」が10%超だった。
結果を受けて研究チームは、ロボットに褒められた人は他者をより褒めるようになり、「煽られた」人は逆の態度をとるようになると結論づけて、「ロボットという人工物からの褒めであってもパフォーマンス向上に有効なだけではなく、褒めた相手の社会的態度にも変化をもたらすことを示しています」と述べた。一方で、今回の実験では卓上サイズのロボットを用いたが、「Pepper」のような大型の人型ロボットや、人間に似た「アンドロイド」だった場合は結果が変わると推測している。