手足の動かしづらさや立ちくらみ、ろれつが回らないなどの症状が出る進行性の難病「多系統萎縮症」について、ビタミンに働きが似た物質を多量投与する治験を実施し、進行を抑制する効果が示されたと東京大の研究チームが14日、発表した。多系統萎縮症は厚生労働省が定める指定難病の一つ。起立や歩行が不安定になるほか、排泄(はいせつ)や発話に困難が生じるなど、さまざまな症状が出る。この病気の有効な治療法となる可能性を示した世界初の成果だという。
多系統萎縮症は、脳内にアルファシヌクレインというタンパク質が異常に蓄積し、神経細胞が減少したり、脳が萎縮したりすることが分かっているが、発症の原因は解明されていない。症状を緩和する対症療法しかなく、進行を抑制する有効な治療法の確立が求められている。
研究チームはこれまでの研究で患者のゲノム解析を実施。「COQ2」という遺伝子の変異が一部の発症に関連することを突き止めた。この遺伝子は、ビタミンに似た働きを持つ物質「コエンザイムQ10」の合成に関わっていた。また、この遺伝子変異の有無に関わらず、患者の脳内や血中でコエンザイムQ10の量が低下していることを発見した。コエンザイムQ10は、細胞内でエネルギーを産生したり、過剰に生産されると病気の原因となる恐れがある活性酸素を分解したりする働きがある。
こうした成果から、還元型というタイプのコエンザイムQ10を投与する治療法の開発を進めた。健常者に投与して安全性などを確かめ、患者を対象に有効性と安全性を調べる医師主導治験を実施した。
運動症状を測る指標の変化について、偽薬を投与されたグループと比べたところ、48週間で悪化の度合いが約25%抑制された。日常生活の動作や歩行の状態を調べる他の指標でも進行が抑えられていることが示された。
東京大の辻省次名誉教授は「進行性の難病で進行を抑制するような治療薬の可能性を見いだした点で非常に大きな成果だ。ゲノム解析結果をもとにここまで研究が発展してきた」と話し、難病の治療法を探す有効なアプローチを示せたと指摘した。
多系統萎縮症は進行が早く、国内の患者の調査では発症から約5年で半数が車椅子を使用するようになり、約10年で寝たきりや死亡に至ることも多いという。発症年齢は平均で50代後半で、国内には推計で約1万2000人の患者がいる。平成30年に63歳で亡くなった歌手の西城秀樹さんも発症したことでも知られる。
還元型コエンザイムQ10はサプリメントもあるが、治験ではそれらの摂取目安よりかなり多量を投与している。保険適用の医薬品として使えるよう開発を進め、実用化を急ぐ。