休眠化して脱税などへの悪用の恐れのある宗教法人に対し、文化庁が解散命令手続きを含む法人整理の迅速化を図る方針を固めたことが5日、分かった。活動実態がなく、解散命令請求の対象にもなる「不活動宗教法人」の判断基準を初めて示し、3月31日付で各都道府県に通知した。不活動法人を速やかに認定して解散を促すことで、宗教法人の税制上の優遇措置に着目した不正の芽を摘む狙いがある。
文化庁によると、全国約18万の宗教法人のうち、不活動法人は令和3年12月末時点で3348法人だが、休眠状態にある法人数は国の把握分を大幅に上回る可能性がある。昨年末、産経新聞が文化庁と47都道府県に実施したアンケートでは、宗教法人が所轄庁(国や都道府県)に毎年提出すべき役員名簿や財産目録などの「事務所備付け書類」について、提出しなかった法人数が1万5千超にのぼったことが判明した。
多数にのぼる不活動法人について、文化庁は都道府県側に対し、活動再開や合併・任意解散を促したり、裁判所に解散命令を請求したりして整理を進めるよう求めてきた。ただ、不活動法人と判断するための統一基準がそもそも存在せず、都道府県ごとの裁量に委ねられる状態で、法人整理も進んでいなかった。
文化庁が今回通知した基準では、備付け書類の提出を求める督促状が届かず、法人側と連絡が付かない▽備付け書類の未提出を理由に罰則(過料)の対象となったのに、翌年も書類の提出がない-といった場合、直ちに不活動法人と判断するよう明記した。
その上で、1年以上にわたり宗教活動をしていない▽礼拝施設がなくなってから2年以上にわたり新たに備えない-など、宗教法人法81条に基づく解散命令の要件を満たすことが確認されれば、速やかに所轄庁側が裁判所に解散命令を請求するための手続きを取るよう記している。
今回の通知について、文化庁の担当者は「不活動法人対策を徹底するため曖昧な部分を明確化した。円滑な解散手続きを後押しするために今後、具体的なマニュアルも示したい」と述べている。
休眠状態に陥った宗教法人が、脱税や資金洗浄(マネーロンダリング)といった犯罪の温床になり得ることは以前から指摘され、国も危機感を募らせてきた。2月の衆院予算委員会で議員から見解を問われた岸田文雄首相は「悪用の可能性が広がることはあってはならない」と強調していた。(「宗教法人法を問う」取材班)
宗教法人の解散命令 宗教法人法は、文部科学相や都道府県知事、検察官などの請求に基づき、裁判所が宗教法人に解散を命じることができると規定。「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」がある場合の他、1年以上活動していない法人などに適用される。命令を受けると宗教法人格を失うが、解散後も任意の宗教団体として活動を続けられる。
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