都内初の陽子線がん治療施設誕生へ 超小型化で身近な医療に 25年秋に稼働予定

東京都内で初となる陽子線がん治療施設の誕生に向け、江戸川病院グループ(東京都江戸川区)と陽子線治療装置の開発を手掛けたビードットメディカル社(同)が3日、装置導入の調印式を行った。機器の巨大さがネックとなり、都内の医療機関での導入は困難と考えられていた陽子線治療装置だが、装置の小型化によってそのハードルをクリアした格好だ。今後、江戸川メディケア病院に新設する陽子線治療施設に導入される予定で、2025年秋の稼働を目指す。

調印式の様子(左から加藤正弘・仁生社理事長,加藤正二郎・江戸川病院院長、古川卓司・ビードットメディカル 代表取締役社長)=4月3日、江戸川メディケア病院(後藤恭子)
調印式の様子(左から加藤正弘・仁生社理事長,加藤正二郎・江戸川病院院長、古川卓司・ビードットメディカル 代表取締役社長)=4月3日、江戸川メディケア病院(後藤恭子)

がん治療に新たな希望

陽子線は放射線の一種で、安全で治療効果が高いがん治療法として注目を集めている。正常な組織を含めてダメージを与えるX線と違い、狙った病巣でエネルギーを最大化できる陽子線は、周囲の正常な組織や臓器へのダメージが少なく、副作用を低く抑えることができる。そのため日常生活を大きく変えることなく働きながらがん治療が可能になるなど、患者のQOL(生活の質)向上に寄与すると期待されている。

最近では保険適用の対象となる疾患も増えており、小児がんや前立腺がん、骨軟部腫瘍、一部の頭頸部がんのほか、前回の診療報酬改定では新たに進行性の膵がんや肝細胞がんなど4疾患が保険適用の対象に加えられた。

ただ、従来の陽子線治療装置は高さ約10メートル、重さ約200トンもある巨大さで、導入にはテニスコートほどの広いスペースと装置を格納する専用の建屋が必要となる。そのため導入している施設は全国で19カ所(2023年4月現在)にとどまり、広い敷地の確保が難しい東京都内では陽子線治療装置を導入できる施設は一つもなかった。

超小型陽子線治療装置による照射イメージ(ビードットメディカル提供)

江戸川メディケア病院への導入が決まったビードットメディカルの陽子線治療装置は、すでに普及しているX線治療装置と同等の大きさにまでサイズダウンした世界最小の超小型装置。放射線医学総合研究所(放医研)で研究者として同治療法の研究に携わりながら、「治療法として優れていても、多くの患者に行き渡らなければ本当の意味で医療とはいえない」と葛藤を抱いていた同社代表取締役の古川卓司氏が放医研スタートアップを立ち上げ、4年の歳月をかけて医療機関に導入しやすいサイズを実現した。同社の製品が導入されるのは都内はもちろん、国内でもこれが初となる。

従来の陽子線治療装置とX線治療装置と比較したビードットメディカルの超小型陽子線治療装置のサイズのイメージ(ビードットメディカル提供)

がんの放射線治療で全国有数の実績をもつ江戸川病院では、従来型の放射線治療のような周辺の正常組織も含めて照射する治療法は排除し、腫瘍に対して集中的に照射を行う強度変調放射線治療(IMRT)に特化した放射線治療に積極的に取り組んでいる。

江戸川メディケア病院内に新設する陽子線治療施設は敷地面積500平米の4階建て構造で、テニスコート半面ほどの面積に陽子線治療室を2部屋配備し、検査室なども含めた施設となる予定。導入コストは「数十億円」とのことだが、それでも従来装置の半分程度のコストに抑えることができたという。同院の加藤正二郎院長は「陽子線治療装置の導入を機に、世界最高水準のがん治療施設を目指したい」と意欲を示している。

来賓として出席した、厚生労働大臣政務官で放射線技師でもある畦元将吾衆議院議員は、超小型陽子線治療装置について「非常に画期的な技術で、がん治療に対して新たな希望を与える」との見方を提示。都内の病院でも陽子線治療を受けられるようになったことに、「より多くの患者の命を救うことにつながる。いまがその(がん治療の)転換のタイミングだと感じている」と今後の導入拡大に強い期待感を示した。

なお、この日の調印式には元厚生大臣の藤本孝雄氏らが来賓として出席。DHCの元代表取締役会長の吉田嘉明氏も、当日の式には出席しなかったが同技術の普及拡大に賛同を示しており、江戸川メディケア病院に対して数億円規模の個人寄付を行ったという。

ビードットメディカルの陽子線治療装置の模型を手にする加藤正二郎院長(画像左)と吉田嘉明氏(江戸川病院グループ提供)

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