中国当局が、アステラス製薬の現地法人幹部の男性を「スパイの疑い」で拘束した事件が、中国の日本人社会などに大きな衝撃を与えている。中国で2014年に「反スパイ法」が施行されて以降、日本人を含む外国人が拘束されるケースが相次いでいる。スパイの定義も不明瞭で、当局が恣意(しい)的に拘束する危険もある。林芳正外相は4月1~2日に中国を訪問し、秦剛外相と会談する調整に入った。拘束された男性の早期解放を求める意向だ。中国で暮らす日本人は約10万2000人(22年10月時点)もおり、共産党独裁国家のリスクが改めて浮かび上がった。
「(一報を聞き)同じような状況だと思った。『1人で行動したのだろうか』『監視されていたのか』と、自分と重ね合わせた」
16年から約6年間拘束され、昨年秋にやっと帰国した日中青年交流協会の鈴木英司元理事長(66)は、今回の事件を受けて、こう語った。
北京市で今月に拘束されたのは、アステラス製薬で現地法人幹部を務める50代男性で、今月に駐在期間を終えて日本に帰国する予定だった。
中国外務省の毛寧副報道局長は27日の会見で、「スパイ活動に従事し、中国の刑法や反スパイ法に違反した疑いがある」と拘束理由を説明したが、具体的な容疑内容は明かしていない。
習近平政権は14年に反スパイ法を施行して以降、中国で活動する外国人の取り締まりを強化した。スパイ容疑などによる日本人拘束は14年以降、今回のケースを含めて少なくとも計17人に上る。現時点でも5人が中国国内にとどめられている。