令和人国記

ねぶたには人を狂わせる魔力がある 青森市出身・ねぶた師の千葉作龍さん(76)

産経ニュース
ねぶたの魅力や後輩に託す思いなどを語る千葉作龍さん=青森市(福田徳行撮影)
ねぶたの魅力や後輩に託す思いなどを語る千葉作龍さん=青森市(福田徳行撮影)

昨年、3年ぶりに開催された東北を代表する夏祭り「青森ねぶた祭」。〝主役〟である大型武者人形「ねぶた」を半世紀以上にわたって制作してきたのが、青森市出身のねぶた師、千葉作龍さん(76)だ。優れたねぶた制作者に与えられる「第5代ねぶた名人」は惜しまれながら昨夏を最後に第一線を退いた。ねぶたへの熱い思いを語った。

東京五輪に感動

「門前の小僧」というか、ねぶたが好きだったおやじの影響で幼少の頃からねぶたが身近にあって興味がありました。高校3年の時に1964年東京五輪を見て選手たちの活躍に感動して自分の人生でやれることは何だろうと考えた時、ねぶた師になろうと思いましたね。

昭和60年代から平成初期にかけてねぶた名人が4人誕生しました。私も60代半ばで名人に推挙されましたが、目的はそこではなかったんです。ねぶたは作っているうちに欲が出てきて自分がやっていることが稚拙に思えてしようがない。それでまた勉強して自分自身でハードルを作ってきました。名人によってうんぬんということはありません。

ただ、個人的にはいつ第一線を退こうかという心境でいたんですが、コロナ禍の最中に逃げるように辞めるわけには、いかないというのがありました。それで一昨年、形ばかりですが復活し昨年、最後に残っていた弟子を受け入れてくれる団体があったので、自分も年をとってきたし、良い辞め時かなと思いました。コロナ禍で祭りが開催できなかった2年間の若い人たちの気持ちが手に取るように分かりますね。

世界一の祭り

「ねぶたの魅力は?」とよく聞かれますが、言葉で表すには非常に難しい。でも誰に聞いても同じだと思いますが、人を狂わせてしまう魔力だと思います。良くも悪くも人を狂わせてしまう。例えば、ねぶたを作る側にしてみれば経済的なことは二の次で、作るのが第一なんです。祭りが終わったら気持ちをゼロにして、来年また作るぞと。道楽的なものになってしまいますが、皆そういう思いをしているので魅力という概念を超えてしまっている。

よその祭りでも同じだと思いますよ。長野県諏訪地方の「御柱(おんばしら)祭」や大阪府の「岸和田だんじり祭」を見ても分かるように、ねぶたに近い感覚で、それだけ人間は祭りに狂う。理屈じゃないと感じます。誰でも自分たちの祭りが世界一だと思っていますから。

引退して半年以上がたちましたが、私は品性を大事にねぶたはボランティアで作る物、住民とのコミュニケーションの場で、ねぶたを作ることを神様に指名され、お仕えする感覚でずっとやってきました。ところが、最近の若い人たちは自分主義で「これは自分の芸術なんだ」というのを表に出し過ぎる。ねぶた祭の経済効果や時代の流れということなんでしょうけど、それだとねぶたの持つ意味がなくなってしまう。

優れた芸術家になるためには優れた職人であるべきだというのが私の持論。でなければ技を発揮できない。ところが、芸術というのは人が受け入れようが受け入れまいが関係なく、自分の発表の場というのがあるんですよ。だから、ねぶたは芸術のカテゴリーに入れるべきではないと思っています。

ねぶたの憲法を

青森は雪が多いという大変な部分はありますが、海あり、山あり、おいしい食べ物があり、四季に恵まれている。こういう県はなかなかないと思います。世界文化遺産に登録された三内丸山遺跡に代表されるように、近年になって青森県内で縄文文化が栄えていたということも分かって、青森の良さが注目されています。そこに、ねぶたという世界に誇れる文化もあり、県民としてやはり郷土愛はありますね。

これからは青森ねぶた祭保存会に入って祭りの方向性や決まり事、伝統的な部分を守っていけるようなシステム、ねぶた制作者の経済的な負担軽減などに取り組みたいですね。大げさに言うと「ねぶたの憲法」を作りたい。結果を出せなくても自分がやらなければいけない、そういう気持ちでいます。それが今まで私を育ててくれたねぶたに対する恩返しです。(聞き手 福田徳行)

ちば・さくりゅう 本名・千葉伸二。昭和22年、青森市生まれ。42年にねぶた師としてデビュー。制作した大型ねぶたは歴代最多の156台に上り「ねぶた大賞」や「知事賞」など数多く受賞。弟子はねぶた師の内山龍星さん、竹浪比呂央さん、林広海さん、吉町勇樹さんの4人。

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