記者発

企業は日本の心を見つめよ 大阪経済部・牛島要平

産経ニュース

正月に帰省した際、実家の書棚の奥に眠っていた本を引っ張り出した。米ハーバード大教授だったハンチントン氏が1996年に上梓(じょうし)し、98(平成10)年に日本語版が出た「文明の衝突」。当時評判になり購入したものの、ろくに読んでいなかった。

同著でハンチントン氏は冷戦後の世界が西欧、東方正教会(ロシアなど)、イスラム、中国、日本などの文明圏に分かれていると指摘。21世紀には西欧の衰退が顕著になり、「文明の断層線(フォルト・ライン)を境界として紛争が起こる」と予想した。

日本については、単独で文明圏を構成する世界唯一の国で「近隣諸国と文化的なつながりをほとんどもたない孤立した国」と書いた。最近の企業は「孤立」どころか、業種を問わず「デジタル化」と「脱炭素化」という世界的潮流に遅れまいとしている。

デジタル化の趨勢(すうせい)は、スマートフォンの登場が生活を一変させたことからして疑う余地がない。脱炭素化はどうか。2025年の大阪・関西万博でも二酸化炭素(CO2)を出さない水素エネルギーの展示を目指すが、「それでどんな未来がやってくるのか」を語るのは難しい。

脱炭素化は「CO2は地球温暖化の主要な原因だから減らさなければならない」との前提に立つ。この前提に疑問を示す専門家もいて、あるエネルギー会社の幹部も「あれ(脱炭素化の必要性)って本当なんですかね…」と記者に漏らしたほどだ。

「零戦(れいせん)」などの戦闘機、新幹線、自動車、家電など世界に名をとどろかせた製品には「日本らしさ」があった。技術的水準の高さだけではなく、使いやすさやデザインに日本人の心が込められていた。外来の理念に追従するだけの企業では物足りない。

作家の三島由紀夫氏は昭和45年11月、自決する1週間前の対談で精神性を喪失した戦後日本を批判し、「日本人という国民はそんな、つまり相対主義的な幸福というところに落ちつくとは、ぼくは見ていないんです」と語った。

デジタル化も脱炭素化も否定するつもりはない。ただ、企業は日本が歴史の中で培ってきた独自の価値を見つめ直すところからしか、真に世界一といえる製品を生み出せないのではないだろうか。

【プロフィル】牛島要平

平成12年入社。神戸総局などを経て、大阪経済部で財界など、社会部で空港などを取材。昨年10月から経済部でエネルギーなどの分野を担当している。

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