ロシアのプーチン大統領に対する逮捕状を国際刑事裁判(ICC)が発行した。ウクライナ侵略を巡る戦犯追及の今後について、ブリュッセル自由大教授(国際法)バイオス・クトルリス氏に聞いた。(聞き手 三井美奈)
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ICCが、国連安全保障理事会の常任理事国の国民の訴追に向けて動くのは初めてとなる。ICCは容疑者不在の欠席裁判は行わない。逮捕状を出しても、プーチン露大統領の身柄が引き渡されない限り、次の段階に進むことができず、逮捕状はいまのところ、象徴的な意味にとどまる。
ロシアによる子供の連れ去りについて、ウクライナはジェノサイド(集団殺害)罪に相当すると主張している。これは立件が非常に難しい。ウクライナ人を一つの民族集団とみなし、破壊しようとした意図を立証する必要がある。
ICC加盟国は、逮捕や身柄引き渡しで協力義務を負うが、非加盟国には義務が及ばない。しかも、ICCは、加盟国に身柄拘束を強要する力を持たない。国家元首を被告席に座らせるのは、最大の難関となる。
2009年、ICCはアフリカ東部スーダンのダルフール紛争を巡り、バシル大統領(当時)に対してジェノサイド容疑などで逮捕状を出した。この時、加盟国、非加盟国とも拘束しようとせず、彼は悠然と外遊を続けた。国家元首は免責特権があると考える国もあり、プーチン氏が権力の座にいる限り、身柄拘束は見送るかもしれない。
ウクライナは、プーチン氏を侵略罪で訴追することを目指し、国際特別法廷の設置を求めている。そもそもICCがロシアの侵略罪を裁けないのは、米国や英仏など大国に責任がある。戦争という国家行為をICCの裁きに委ねることに強く抵抗し、ICC規程で管轄権行使を厳しく制限したからだ。
特に米国は米兵が訴追されることを警戒し、ICCへの不信感を露(あら)わにしてきた。アフガニスタンで起きた人権侵害でICCが捜査に着手した際、検察官に制裁を科したほどだ。
ICCがあるのに、米欧がロシアを裁く目的で新たな国際法廷の設置に動けば、「二重基準」の批判を招く。ICC規程を見直し、侵略罪訴追への障害を取り除くことこそ重要だろう。