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無住の地に屋敷森や電柱…? 河川敷にゆらめく「幻の村」 熊谷市

産経ニュース
夕日にたゆたう小さな森。旧新川村の記憶をかすかに呼び起こす=埼玉県熊谷市(中村智隆撮影)
夕日にたゆたう小さな森。旧新川村の記憶をかすかに呼び起こす=埼玉県熊谷市(中村智隆撮影)

埼玉県北部の熊谷市と行田市の境近く、荒川の河川敷。小高い堤に立つと、眼下に屋敷森が点在する集落のような土地が広がる。だが近づくと、竹やぶや田畑ばかりで住人は見当たらない。それでも電柱が立ち、郵便番号も割り振られているそうだ。土地の名は新川といい、人呼んで「幻の村」。きつねにつままれたよう。うろたえながらも、正体に迫るべく足を踏み入れた。

洪水による氾濫を繰り返し、「荒ぶる川」をその名の由来とする荒川。幻の村はJR行田駅(埼玉県行田市)のほど近く、荒川の河川敷にあった。堤防から望むと、田畑の中に小さな森が点在し、のどかな田園の趣だ。ただ、どこか哀愁が漂う。

堤防から伸びる小道を進み村に入る。屋敷森のような茂みは竹などが密生し、住まいはなさそうだった。周囲を見渡したが、やはり田畑はあっても住人は見つからない。それでも小道は整っているし、電柱もあって電線が乗っている。なんとも不思議だ…。

先に進むと広場のような一角に出た。そこには「ようこそ 幻の村・新川へ」という看板が。これによると、ここはかつて新川村という集落があったという。江戸時代に生まれ、舟運や養蚕の村として栄えたが、鉄道や化学繊維の登場ですたれ、荒川の水害もあり人々が去っていったそうだ。

広場のようなところに立った看板には、旧新川村についての説明があった=埼玉県熊谷市(中村智隆撮影)
広場のようなところに立った看板には、旧新川村についての説明があった=埼玉県熊谷市(中村智隆撮影)

昭和の時代に熊谷市に編入され、戦後に廃村。市江南文化財センター学芸員の山下祐樹さんなどの話では、小さな森にはかつて住居があったという。ほかにも神社の鳥居や船着き場の跡など、往時の村をしのばせるものが残っている。

田畑では現在、旧新川村の地主から土地を借りた人が米と麦を作っている。電柱は地下水をくみ上げる電力を供給するためのものらしい。近くにゴルフ練習場があり、少し前まで別荘などの家屋もあったといい、今も「熊谷市新川」として郵便番号があるそうだ。

市や市内にキャンパスのある立正大などは旧新川村の文化を残そうと、幻の村として発信。村の名残の見学や農業体験を通じ、子供を中心にアピールしてきた。令和元年の台風や新型コロナウイルス禍で下火になったが、今夏にはAR(拡張現実)を活用したPRなどに乗り出す考えだ。

霞のようにはかなく、あやうくゆらめく村の記憶。まるでこの地に伝わるきつね火のようだ。「幻の村の灯を引き継いでいく」。山下さんは静かに力を込めた。(中村智隆)

メモ ▽所在地=埼玉県熊谷市新川▽アクセス=JR行田駅から車で約10分▽周辺情報=「埼玉(さきたま)古墳群」のほか「熊谷スポーツ文化公園」「国営武蔵丘陵森林公園」など憩いの場がある。

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