春闘で大手企業の集中回答日を迎え、労組側の要求に満額回答する事例が相次いだ。賃上げに向けた経営側の積極的な姿勢を歓迎したい。
エネルギーや食料などの世界的な価格高騰を受け、日本の物価も上昇傾向が続いている。物価の伸びを上回る賃上げが達成できなければ、家計の負担は軽減されず、個人消費にも大きな影響を与える。
そうした事態を回避するために何より重要なのは、この機運を今後、交渉が始まる中小企業などにも着実に波及させることだ。
そのうえで今回の動きを一過性に終わらせず、来年以降も継続させることで日本経済全体の底上げを図り、経済の好循環の実現につなげたい。
今年の春闘は、政府や労働組合だけでなく、経済界からも高い賃上げが必要との声が高まっていた。物価高の影響で家計が圧迫されており、一定以上の賃上げの確保が不可欠との見方からだ。例年になく労使で認識が共有された春闘となった。
経営側から回答が示された自動車や電機、重工などの大手企業では、従業員の賃金水準を一律に引き上げるベースアップを含め、軒並み労組の要求に満額で応じる内容となった。確かな賃上げの確保に向けて幸先のよいスタートを切ったといえよう。
問題はこれからだ。大手企業に続いて賃金交渉が始まる中堅・中小企業でも、同様の取り組みが欠かせない。日本企業の9割以上を占める中小企業で働く人たちの賃金が上がらなければ、自律的な経済成長も期待できない。
そうした企業の原資を確保するため、値上がりする原材料費や電力料金などのコスト増分を適正に価格転嫁できる環境づくりが求められる。下請けいじめの徹底排除を含め、大手企業との取引状況を監視する必要がある。
外食や流通などでは人手不足が深刻化し、コロナ禍からの回復が思うように果たせていない企業もある。今春闘ではパートなど非正規社員の時給を増やす動きも相次いでいる。優秀な人材を獲得するためにも賃上げを進めたい。
15日には岸田文雄首相と経済界、労働界のトップが参加する政労使会議も8年ぶりに開かれ、賃上げ環境の整備で一致した。その実現に向けて政労使が緊密に連携することも重要だ。