岸田文雄首相が8年ぶりに「政労使会議」を開いた15日は、多くの大企業が賃上げに応じた春闘の集中回答日だ。これから労使交渉が本格化する中小企業に賃上げを波及させる機運を演出する舞台として設定した。中小の賃上げは、分配重視の首相の経済政策「新しい資本主義」の成否を握る。4月の統一地方選にも影響するが、大企業のような賃上げは困難という危機感の裏返しでもある。
「『成長と分配の好循環』の実現のための転換点が今春の賃金交渉(春闘)だ。ご協力をお願いする」。首相は15日の政労使会議でこう述べ、今後の中小企業の春闘が重要だとの考えを強調した。
春闘で労働組合の要求は近年にない高水準となったが、15日には大企業の大幅な賃上げや満額回答が相次いだ。松野博一官房長官は記者会見で「大企業を中心に賃上げの力強い動きが目立っている」と歓迎した。 ただ、日本の雇用全体の約7割を占めるのは中小企業で、特に地方経済を支える存在でもある。松野氏は「賃上げの動きが中小企業にも波及していくことを期待したい」と語った。
首相は1月の年頭記者会見で重点課題に賃上げを挙げ、「インフレ(物価上昇)率を超える賃上げの実現をお願いしたい」と呼びかけた。今回の政労使会議はその延長線上にある。
前回の政労使会議は安倍晋三政権下の平成27年4月。今回は「会議」と名乗らずに「賃上げへの意識を共有する」(首相周辺)ための「政労使の意見交換」と位置付けた。
首相が賃上げを強調するのは、政権運営を左右するからでもある。物価高が国民生活を直撃する中、賃上げの流れが雇用の中心である中小企業に波及しなければ、持ち直しつつある内閣支持率を再び押し下げる要因にもなる。
首相は4月の統一地方選や衆参5選挙区の補欠選挙を乗り切った上で、勝てるタイミングを見極めて衆院解散・総選挙に踏み切り、長期政権を目指す-。こうした見方が党内では大勢だ。衆院解散の時機について、自民党幹部は「内閣支持率と経済指標次第だ。数字が悪ければ解散できない」と指摘する。(田中一世)