やる気や集中力を生み出す神経伝達物質「ドーパミン」について、京都大の研究グループは、目標に対して期待外れの結果が生じても、直後に活発化して分泌量を増加させる新たなドーパミン細胞や神経回路を発見したと明らかにした。研究グループは「挫折を乗り越えて動物やヒトが意欲を持ち続ける脳の仕組みの解明や、鬱病などの治療法開発につながることが期待できる」としている。研究成果は、10日付の国際科学誌電子版に掲載された。
「やる気ホルモン」とも呼ばれるドーパミンの細胞や回路は成功体験や期待以上の報酬によって活性化し、逆の場合は活動が低下することで知られている。
しかし、こうした働きのみでは、動物が失敗をしても獲物を探す行動や求愛行動を繰り返すこと、また人間が仕事や勉強などで目標に届かなくても努力を続けることを説明できず、神経メカニズムは不明とされてきた。
そこで京大大学院医学研究科の小川正晃特定准教授らのグループは「従来型とは別のドーパミン細胞が存在する」との仮説をたて、確実にもらえるわけではない餌(報酬)を得るために特定の行動を繰り返すよう訓練したラットを開発。このラットのドーパミン細胞の活動を詳しく調べると、餌がもらえなかった(期待外れが生じた)直後に活動が増す新規型のドーパミン細胞の存在が明らかになった。
実際にドーパミンの分泌量も増加することも確認。人工的にこれらの神経回路を刺激すると、ラットが期待外れを乗り越えて餌を得るための行動に誘導することもできたという。
小川特定准教授は「意欲に関するドーパミンの新たな役割を解明し、脳の仕組みの常識を変える成果だ」と説明。意欲が異常に低下する鬱病や、逆に異常に高まる依存症などの治療法や新たな診断法の開発につながることが期待できるとしている。(杉侑里香)