北川信行の蹴球ノート

女性アスリート特有の健康問題解決を…INAC神戸が体調管理のパートナー契約

産経ニュース
コンディショニングパートナー契約締結会見で記念撮影に応じる(左から)安本卓史社長、伊藤美紀選手、幸村潮菜社長=ノエビアスタジアム神戸(北川信行撮影)
コンディショニングパートナー契約締結会見で記念撮影に応じる(左から)安本卓史社長、伊藤美紀選手、幸村潮菜社長=ノエビアスタジアム神戸(北川信行撮影)

サッカー女子プロ、INAC神戸レオネッサを運営する「アイナックフットボールクラブ」と、女性が抱える身体の不安解消などを目指すサービスの提供や、化粧品などの企画、販売を行う「WiLLUMiNA(ウィルミナ)」(本社東京)が12日、コンディショニングパートナー契約を締結した。クラブに所属する選手や女性スタッフが、同社が開発したオンライン診療・医療品処方のプラットフォーム「HERDAYS(ハーデイズ)」を活用し、低用量ピル服用による月経時の体調不良の軽減やコンディション調整、運動パフォーマンスの向上などに取り組むという。同社がスポーツ団体と同様の契約を結ぶのは初めてで、女性アスリート特有の健康課題を解決する「フェムケア」の新たな試みとして注目される。

月経対策の情報・知識不足、浮き彫りに

コンディショニングパートナー契約締結会見で説明する幸村潮菜社長(右)。中央は安本卓史社長、左は伊藤美紀選手=ノエビアスタジアム神戸(北川信行撮影)
コンディショニングパートナー契約締結会見で説明する幸村潮菜社長(右)。中央は安本卓史社長、左は伊藤美紀選手=ノエビアスタジアム神戸(北川信行撮影)

12日にINAC神戸の本拠地、ノエビアスタジアム神戸(神戸市兵庫区)で開かれた契約締結会見。アイナックフットボールクラブの安本卓史社長、ウィルミナの幸村潮菜社長とともに会見に同席したINAC神戸の伊藤美紀選手は、これまで女性アスリートにとって月経は仕方のないもの、がまんするものと言われてきた点を踏まえて「日本の女性アスリートの間では(月経時の体調不良などを軽減するために)ピルはあまり使われていない。知識がなかったし、練習や試合などの関係で病院に行くのが難しい問題もある。私自身、頭痛などがあり、過去にピルを使ったこともあるが、体に合わず、やめようとなった。(当時は)そこで薬を変えようという判断はなかった。今回の取り組みでコンディションを整え、いいパフォーマンスにしていけるのはいいことだと思う。モデルケースになっていければ」と希望を話した。

幸村社長によると、国内の女性アスリートを対象に実施した調査で、「月経周期の調整方法を知っていますか?」との設問に、66・3%が「考えたこともなかった=月経周期をずらせることを知らなかった」と答え、「婦人科を受診していますか?」との問いかけには、96%が「NO(いいえ)」と回答した。一方、2016年リオデジャネイロ五輪に出場した海外の女性アスリートを対象にした調査では、「月経周期の移動方法を知っている」との回答が97%を占めた。

また、ホルモン剤服用に対して不安な点を尋ねると、「副作用が心配だった」(31%)▽「コンディションへの影響」(20%)▽「パフォーマンスへの影響」(16%)▽「ドーピングに引っかかる心配」(14%)-などの回答が多かった。INAC神戸の選手、スタッフを対象に実施したアンケートでは、43・3%が月経痛、16・7%が月経不順の問題を抱えている一方で、「現在、ピルを服用していますか?」との質問には全員が「NO(いいえ)」と答えた。

これらの調査によって「海外の女性アスリートの多くは、ピルを用いて生理の周期を調整し、大事な試合の際に体調に影響が出ないようにしる。しかしながら、日本国内においては、ピルによる生理周期の調整が可能であることや、ピルを服用することで生理痛を軽減できるなどの効用についての知識や理解促進が進んでおらず、女性アスリートでもほとんど利用されていない実情」が浮き彫りとなった。

女性アスリートのニューノーマル創る

コンディショニングパートナー契約締結会見で契約書に署名する安本卓史社長(左)と幸村潮菜社長=ノエビアスタジアム神戸(北川信行撮影)

こうした現状を踏まえ、ウィルミナは「コンディション調整や運動パフォーマンスに影響を与える婦人科問題の対策として、新しいスタンダードをつくり、新たなコンディショニングの選択肢となる」ことを目指し、「女性アスリートのニューノーマルを創(つく)る」をテーマに掲げて、WEリーグの有力チームであるINAC神戸と提携することに。昨年9月に安本社長が出版した著書『前例がないことをやってみる』(徳間書店)での考え方にも刺激を受けたといい、昨年10月から第1弾としてピル処方サービスを展開している「HERDAYS」を使い、選手、スタッフのコンディショニングを手掛けることになった。

幸村社長の説明によると、「HERDAYS」では、公式のLINE(ライン)を使って問診・診療の予約をした上で、女性医師のオンライン診療を受ける。処方薬などは自宅に郵送で届く仕組みで、決済手続きもオンラインで行う。医師診療環境・決済代行・配送までをワンストップで行うオンラインサービスで、幸村社長は「診療を行うのは全員女性の医師というのにもこだわっている。スマートフォンを使って、15分もあれば、診療、処方、決済が完了する。一般の人を中心に利用者は増えている」と高品質や利便性を強調する。

また、「女性アスリートのニューノーマルを創る」の観点から、①スポーツドクターや婦人科医ら専門医師による「アスリート向け(ピル)服用ガイドライン」の作成②選手や指導者への講座や、一般向けのコンテンツ作成、発信による正しい知識の教育、啓発活動③相談窓口の開設など医師へのアクセス体制の整備-も行う予定で、幸村社長は「まずは女性アスリート向けのガイドラインをつくり、来年の国際女性デー(3月8日)には一定の成果、実績を残せるようにしたい」と抱負を語った。

女子選手に輝く舞台を用意する

一方、「(ウィルミナから)お話があったときに、即決に近い形で決めさせてもらった」と契約締結の経緯を明かしたアイナックフットボールクラブの安本社長は「ゆくゆくは日本の女子スポーツ界全体に(同様のサービスを)使ってもらえる機会になれば」と期待を寄せる。

多くの女子選手や女性スタッフを雇用している立場として、これまでも選手やスタッフの体調管理に留意はしてきたが、「よく分かっていなかった部分があったのも事実」といい、「選手もスタッフも指導者も、まずは理解を深めないといけない。一緒に学んでいくことが大切。選手に輝く舞台を用意するのがわれわれの役目なので」と強調した。さらには、アカデミー(育成組織)やスクールでも専門の医師から学ぶ機会を設けたいといい、「10代のうちから知識を身に付けていければ。10代の選手だけでなく、保護者にも理解してもらい、知ってもらいたい」と力を込める。

8日の「国際女性デー」に合わせ、WEリーグにバスケットボール女子のWリーグ、ハンドボールの日本リーグを合わせた3団体は、高校卒業を機に競技から離れてしまう女子選手が多い問題を解決するための啓発活動「Keep Playing(競技を続けよう)」を合同で展開している。「フェムケア」についても「共同戦線」をはれるのではないか。選手が抱える婦人科問題(生理対策)に関する支援を行い、最高の体調で試合に臨めるようコンディション調整をサポートすることを目的とした今回のコンディショニングパートナー契約が、そのきっかけとなるかもしれない。


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