昨年9月、東海地方に大きな被害をもたらした台風15号。発生から半年が経過する中、寸断した道路の修復のメドがつくなど、焦点も危機管理体制の強化など今後の災害対策に移りつつある。しかし、静岡県内のワサビやシラス産地ではいまも苦難の復旧作業が続くなど災害はまだ終わっていない。
修復しても時間が…
静岡の中心街から安倍川に沿って15キロ北上すると、温暖で広い海から富士山を望むといった静岡のイメージが一変し、のどかな山里が出現する。近年は静岡市も「オクシズ」と呼び観光振興に努めているエリアだ。
安倍川の上流部は静岡県が生産額で日本一を誇るワサビ栽培発祥の地。数百年という歴史のあるワサビ農家も多い。そんなオクシズの沢に石垣を組んで作られたワサビ田には、いつもならば冷涼できれいな清水がかけ流されているが、そんなワサビ栽培の好適地が台風で一変した。
静岡市葵区俵沢でワサビを生産する出雲清教さんは、跡形もなく崩れたワサビ田を前に「ここには重機もそのままでは入らない。ワサビ田を修復しても、育つまでに1年以上かかる。元の状態に戻すには2~3年、いや5年くらいかかるかもしれない」と肩を落とす。
出雲さんが組合長を務める安倍山葵業組合は、被災後すぐに静岡県や静岡市に復興支援を要請した。ただ、沢の惨状を見た市の職員などからは「復旧工事は技術的にも採算面からも難航が予想される。入札で業者を決めるが、応札業者が現れないこともあり得る、といわれている」(出雲さん)とも。先行きはいまだに不透明だ。
漁場に沈む流木
一方、沿岸漁業発祥の地といわれる静岡市中心街からも近い駿河区用宗。用宗漁港はシラス漁で有名だが、ここにも台風で異変が起きた。昨年11、12月の漁獲量が前年比で半減したというのだ。
原因のひとつが海に沈む流木。安倍川が駿河湾に流れ込む用宗周辺はシラス漁の好適地で、専業の漁師や加工工場など関連産業も多い。しかし、台風で安倍川から流されたがれきや流木が漁場に沈んだ。これが原因で思うように漁ができないのだ。
「流木が網にかかると漁は続けられない。網の修復や新調には費用もかかる。かといって漁師による撤去は難しい」(清水漁業協同組合用宗支所関係者)。
このため、漁協は県や市に流木の撤去などで協力を要請した。県は水中カメラで海底に多くの流木があることを確認するなど対応に乗り出したが、「流木の状況や撤去方法を調査し、費用などを算定する必要がある。相当な費用がかかるとみられ、どうするかは今後の課題だ」(静岡県経済産業部水産・海洋局関係者)と頭を抱える。
1月半ばから禁漁期間に入っていたシラス漁も21日には解禁されるが、「このままでは水揚げの減少が避けられない」(清水漁業協同組合用宗支所関係者)。
折しも今春の統一地方選を控え、静岡市長選の立候補予定者は口々に災害時などの危機管理体制の強化を唱える。その傍らで今も続く復旧。今後の復興も含め、まだ災害は終わっていない。
令和4年台風15号 昨年9月23日9時に室戸岬の南で発生。同日夜から24日朝にかけ静岡県でも記録的な大雨をもたらした。静岡県西部から中部の広い範囲で1時間雨量の最大値が100ミリを超え、静岡市では24時間雨量が観測史上最多の416・5ミリに達した。死傷者9人、住家被害は浸水を含めると計1万3034棟。静岡市を中心に最大で12万軒を超える停電、6万戸を超える断水が発生。政府はこの台風による大雨を激甚災害に指定している。
記者の独り言 農業や漁業の現場は大変だ。なり手が少なく高齢化も進む。災害が起きると復旧をあきらめて廃業というケースも多い。世界の分断で食料需給率の向上が求められるが、次代を担う人材や方策を見つけなければさらなる縮小は避けられない。ワサビやシラスを静岡の大事な名産品とするならば、復旧のみに終わらない、持続可能な支援策を考えるべきだ。台風災害は厳しい現実を顕在化させたように思う。(青山博美)