東日本大震災で父を亡くし、故郷の岩手県大船渡市などの被災地を手作りの絵本で語り継ぐ、元小学校教諭の小松則也さん(64)=同県矢巾町。震災から12年となった11日、生まれ育った同市吉浜地区で、津波に遭った家族の体験を記した絵本を小学生らに読み聞かせた。
「こんなごど、あったんだよ」
物語は母、フスミさん(90)が語り掛けるように始まる。
12年前。同県陸前高田市内の病院に入院していた父、雅男さん=当時(84)。病室には母と、妹の勝子さんがいた。午後2時46分。大きな揺れに襲われ、津波にのまれた。
4階の病室も天井近くまで波が押し寄せた。「もう、だめだ。いっしょに3人で死ぬべ」と覚悟する妹、母は「生きねばねえぞ」と振り絞った。偶然に浮かび上がった父のベッドに必死にしがみついた。
奇跡的に難を逃れた3人だったが、父は津波に襲われたショックで衰弱していった。食べ物も口にせず、何も話さなくなり、4月24日、他界した。
「何かできることをしなければ」。創作の契機は、震災後に故郷の吉浜で見つかった「津波石」を知ったこと。昭和8年の昭和三陸地震の津波で打ち上げられた巨石には、当時の様子が詳細に刻まれていた。「ちゃんと教訓を残してくれていた」。今度は自分の番。自然と手が動いた。
これまでに26作品を描いた。家族の被災体験を記したのが、『ふろしきづつみ』だ。制作に取り掛かったのは、震災の翌年。風化が怖かった。
「そんなことやらなくてもいいのに」という母から半年かけて聞き取った。「被災体験を話すのは苦しい」。震災から2年後の3月11日に自費出版した。ただ、朗読しようとすると、つらい思いが声を詰まらせた。できるようになるまで、数年かかった。
今年2月、『いのぢてんでんこ』を書き上げた。フスミさんをイメージした祖母と孫娘との会話の中で、命を守る大切さを描いた。
「大船渡は幾度も津波に見舞われた。被災体験を語り継ぐことが教訓になる」(末崎慎太郎)