ペットボトルのミネラルウォーターにも含まれていると指摘されるなど、近年日常生活への影響が危惧されている「マイクロプラスチック」(MP)。それらが糖尿病や脂肪肝などの病状悪化にも影響を及ぼしている可能性があるとする研究結果を、京都府立医大の研究チームが発表した。高脂肪な食事によって腸内細菌叢(腸内フローラ)が乱れ、腸内を保護する粘膜のバリア機能が低下したところにMPが沈着して炎症を引き起こし、代謝を悪化させることがマウスによる実験で示唆された。研究チームは近年の代謝障害の改善には、医療だけでなくMPの経口摂取を減らす「環境対策」も重要だと指摘している。
実際にペットボトル水で検出されたMP量で検証
研究ではマウスを「普通食」と「高脂肪食」を摂取する群に分け、さらに各群をMPの代表ともいえるポリスチレン粒子を含んだ水を4週間投与した群とそうでない群に分類。計4群を比較した。水に含まれるMPの濃度は1リットルあたり1000マイクログラム。同大の岡村拓郎助教によると、MPの濃度設定は「ペットボトル入りのミネラルウォーター内に含まれているMPの濃度が1リットルあたり656.8±632.9マイクログラムだった」とするイタリアでの研究報告に基づくもので、「実際に我々が日常的に摂取しうる用量」だという。
研究の結果、「高脂肪食+MP」を投与したマウスでは「高脂肪食単独マウス」と比較して、血糖値、血清脂質濃度、非アルコール性脂肪肝(NAFLD)の病状を示す値が高値を示した。
また「普通食マウス」に比べて「高脂肪食マウス」の小腸の透過性が高まり、バリア機能をもつ粘液を作り出す細胞の数が減少した。小腸粘膜の炎症細胞数は「普通食マウス」と「普通食+MP」を投与したマウスで明らかな差はなかったが、「高脂肪食+MP」を投与したマウスでは「高脂肪食単独マウス」に比べて炎症細胞が多く見受けられ、逆に抗炎症細胞はほとんど見受けられなかった。
炎症などに関連する遺伝子の発現は、「高脂肪食+MP」を投与したマウスでは「高脂肪食単独マウス」に比べて有意に高率を示し、さらに「高脂肪食+MP」を投与したマウスの腸内では、本来取り込まれないはずの細菌の数が「高脂肪食単独マウス」に比べて有意に多く存在するなどの変化が生じていた。
研究チームによると、腸は本来「ムチン」という粘膜に覆われて保護されているが、脂肪摂取量の増加によって腸内細菌叢が乱れて粘膜のバリア機能が低下すると、小腸内のバクテリアなどの有害物質が体内に侵入する「リーキーガット症候群」(LGS)という疾患を発症するという。
同研究で、MPが高脂肪食を投与したマウスにのみ糖尿病やNAFLDなどの代謝異常を誘発していたことについて、研究チームは「高脂肪食によってLGSが引き起こされ、MPが腸粘膜に沈着した結果、腸粘膜に炎症が起こり、栄養吸収が変化した可能性がある」と分析している。
代謝障害の改善には「環境対策」も重要
直径5ミリ以下の微小なプラスチック粒子であるMPは海洋プラスチックとしての存在が知られているが、近年は化粧品や洗剤などのパーソナルケア商品やペットボトル水など経口的に摂取する機会が増加しており、人への健康影響が危惧されている。ただ、毒性学的側面からの生物学的妥当性評価は不十分で、MPによる健康影響の発現メカニズムは明らかにされていない。
同研究グループでは先行研究としてMPを含んだ水の慢性的摂取が2型糖尿病を悪化させるという知見を得ており、今回の結果によってその発現メカニズムの解明に一歩踏み込んだ格好だ。
脂肪分を多く含む欧米食が普及・増加し、国内でLGSの発症リスクが高まるなか、岡村助教は「代謝障害の改善には、医学的対策だけでなくMPの経口曝露を減らす『環境対策』が重要」と警鐘を鳴らしている。