【ソウル=時吉達也】北朝鮮の深刻な食糧難が報じられる中、朝鮮労働党機関紙、労働新聞は3日、農業政策幹部らが穀物などの生産不振について一斉に謝罪したと伝えた。1日に終了した党中央委員会の拡大総会では、金正恩(キム・ジョンウン)党総書記が「数年内の農業復興」に向けた対応を指示。政策担当者らの責任を強調することで、住民の不満が正恩氏ら党中枢に向かうのをかわす狙いがうかがわれる。
「穀物生産問題をあれほどまでに考えてくださっている労苦を考えれば、罪悪感で頭を上げることもできない」。同紙は農業政策幹部の発言を引用し、食糧問題に対する正恩氏の関心の高さを強調した。
韓国の聯合ニュースは2月上旬、消息筋の話として、北朝鮮南西部の大都市、開城(ケソン)で1日当たり数十人の餓死者が発生していると報道。北朝鮮の食糧難に関心が高まった。
韓国農村振興庁によると、北朝鮮における昨年の食料生産量は推計451万トンで、前年比約4%減少。慢性的な食糧不足が続くものの、生産現場での明らかな異変などは確認されていない。
問題となっているのは、食糧供給方式の変化だ。北朝鮮は昨年10月以降、これまで黙認されてきた市場での穀物売買を禁じ、政府が管理する販売所での供給を開始。低価格での販売所出荷を拒む生産者側が穀物を闇取引に回し、供給に問題が生じているとみられる。世宗(セジョン)研究所の崔銀珠(チェ・ウンジュ)研究委員は「収穫量をより正確に報告させる制度の導入が急務になっている」と指摘する。
一方、大量の餓死者が出た1990年代後半の「苦難の行軍」期などのような混乱は生じていないとの見方もある。北韓大学院大の梁茂進(ヤン・ムジン)教授は「備蓄米の放出、中国への支援要請なども確認されていない。現状は供給上の問題にとどまり、『餓死続出』という状況にはない」と分析する。
北朝鮮の食糧難に対する評価では、韓国政府内でも混乱が生じている。2月中旬、権寧世(クォン・ヨンセ)統一相が「餓死者が続出するほどではないと思う」と発言した3日後、大統領府は「餓死者が続出する中で、北朝鮮が住民生活を度外視し、核ミサイル開発にこだわっている」との声明を発表。左派系のハンギョレ紙は元政府高官の発言を引用し「安保危機の責任を北朝鮮に転嫁しようと、食糧難を誇張、悪用している」と主張した。