2025年大阪・関西万博は、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスを排出しない地球環境や「脱炭素」を実現した未来社会のあり方が大きなテーマになっている。会場で脚光を浴びそうなのが、新しいエネルギー源として注目度が高まる水素だ。目に見えない水素からどんな未来がみえてくるのか。日本国際博覧会協会(万博協会)で展示企画を担う永見靖・企画局持続可能性部長(51)に聞いた。
有害な排ガスを出さない燃料電池自動車や燃料電池船(水素船)、液化水素を運ぶ大型のタンクローリーや変わった形をした液化水素運搬船…。万博会場では、水素をエネルギー源として動くさまざまな最先端の乗り物に出会えるかもしれません。水素とCO2を合成してガソリンや軽油をつくる「合成燃料」を活用することも考えています。
水素は目に見えないので難しい面はありますが、どのように展示すれば水素のパワーを効果的に感じてもらえるのか、企業や研究機関などと知恵を絞っているところです。
万博では、会場での食品ロスを減らすなどしてCO2排出をできるだけ減らすとともに、脱炭素の新しい技術を展示します。脱炭素社会を実現する上で不可欠なのが水素技術で展示の柱の一つと考えています。
脱炭素の主役は再生可能エネルギーですが、太陽光や風力などによる発電は気候や自然条件に左右され、不安定なのが難点です。さらに電気は大量貯蔵が難しく、送電ロスが大きい。
そこで水素の出番です。電気を液化水素やアンモニアなどに変えて貯蔵し、長距離を運ぶことができる。再エネで発電した電気を水素に変えて船やタンクローリーなどで運搬し、電気に戻して使うことを検討しています。
水素から電気を取り出すには「燃料電池」を使います。水素と空気中の酸素を反応させると電気と水が発生します。会場や周辺を走らせることを考えている燃料電池バスや水素船はこの化学反応を利用します。
一方、大阪ガスは、水素をCO2と反応させて都市ガスの主成分となる合成メタンをつくる「メタネーション」技術を展示する計画です。生ゴミを発酵させてできたCO2を利用する「バイオメタネーション」と呼ばれるもので、精製したガスを会場の給湯や調理などに利用します。
課題は、運び込んだ水素を供給する水素ステーションなど会場のインフラ整備をどうするか。水素運搬船や水素船は会場付近の港湾に停泊し、来場者にみてもらうことも選択肢です。
水素は燃料電池で電気を生み出すことができるほか燃やすことでも発電でき、CO2や窒素酸化物などの有害物質も排出しません。既存の火力発電施設を活用できるという利点があります。気候が寒冷な欧州などでは暖房や航空機などの燃料として、CO2を出さないエネルギーである水素に期待が高まっています。
石油や石炭による火力発電、自動車や工場から排出される有害物質は大気を汚染し、健康に害を与える公害問題を生み出します。日本でも高度成長期に深刻化し、現在はかなり改善されていますが、産業発展が著しい国などではまだ大気汚染が懸念されています。もっと技術が進歩して水素エネルギーが普及すれば、世界中できれいな空気を取り戻すことにもつながるでしょう。(牛島要平)
ながみ・やすし 昭和46年、横浜市生まれ。上智大法学部卒。平成8年に環境庁(現環境省)入庁。独ベルリン自由大などでの長期在外研修を経て同省環境教育推進室長、経済産業省四国経済産業局総務企画部長などを歴任。令和4年1月から現職。