認知能力や判断力の低下などを配慮したサービスの提供が課題となっている高齢者への金融取引をめぐり、順天堂大学や日本IBMなどが販売相手の認知機能を人口知能(AI)で事前にチェックする国内初の業務用アプリケーションを開発した。タブレットで撮影した表情とAIとの会話から認知機能を推定するアプリで、認知症状の判定ではなく「脳の健康度」として推定する。販売相手となる高齢者と商品の適合性判断をサポートする機能として具体的な活用方法を検討するため、三菱UFJ信託銀行での試験運用を開始した。
15段階で「脳の健康度」を評価
順天堂大学は2018年以降、脳の認知機能レベルを音声・表情等の自然データから推定するAIの研究開発を開始し、累計600症例以上の認知症を始めとする脳神経疾患患者や健常者への臨床試験を実施してきた。その結果を元に、データ解析技術をもつ日本IBMと、表情解析技術をもつグローリー(兵庫県姫路市)との共同で、会話や表情から脳の認知機能レベルを推定するAIを開発した。
その技術を応用した「金融商品適合性チェック支援AIアプリ」は、タブレットで撮影した表情とAIチャットボットとの自然な会話から、10分程度の間に認知機能を「脳の健康度」として1(低)~15(高)までの15段階でスコアを推定。営業側に販売の可否、あるいは販売可能な金融商品を選択する上での参考情報として提供する。
判定の対象となるのは日本証券業協会ガイドラインが「慎重な勧誘による販売を行う必要がある」としている75歳以上の高齢者。算出されたスコアは本人には提示されず、営業担当の社員のみが把握できる仕組みにしている。
サービスの質を高めるツールに
老後生活を見据えた資産形成サービスへのニーズが増す一方、金融商品取引の現場では客の認知能力や判断力低下などの影響を配慮したサービスが課題となっており、業界団体が定めるガイドラインでも近年、認知機能に応じた高齢者への対応を重視する方針が明記された。しかし金融商品取引に関する認知機能を客観的に評価する手法が確立されていないのが現状で、それだけに同アプリのようなデジタル技術を活用したサポート機能の導入に対する期待は大きい。
開発を手掛けた日本IBMは、「販売の可否だけでなく、例えば認知能力によってはリスクの高いものを避けるといった判断もできる。あるいは顧客のケアを継続して行うツールとして活用することで、より深い関係性を構築できる可能性もある」と期待を示している。
試験運用を行う三菱UFJ信託銀行では来年度中の本格導入に向け、15段階のスコアに基づいた基準づくりなどを含め、具体的な運用方法を検討するとしている。