しかし、宮崎病院長がそれ以上に心を痛めたエピソードがある。
「当院の男性看護師が地元の理容店に散髪に行ったところ、この病院で働いていることを理由に散髪を断られたというのです。その話を聞いたとき、私は本当に悲しく、またスタッフたちに申し訳ないと思いました」
「彼らは日々搬送されてくる患者さんのために、それこそ大きなリスクを負いながら働いている。それなのに、そんな彼らが地域に拒否されることの不条理をどう考えればいいのでしょう。しかし私は散髪を断った理髪店を恨むこともできないのです。彼らがそうした対応を取る理由は、〝正しい情報がない〟という一点に尽きるからです」
全診療科がオープンしても、コロナ以外の診察で病院を訪れる患者は毎日数えるほどで、広い院内はガランとしていた。
「当初は1日あたり1000人程度の外来患者数を見込んでいましたが、蓋を開けてみると、全科を足しても100人に満たない日が続きました。コロナ対応に当たる感染症科と呼吸器内科だけが休む暇のない忙しさなのに、他の診療科は開店休業状態。空いた時間を使って地域の開業医にあいさつに行くなどしていましたが、経営的には大ダメージです。しかも、コロナ対応に当たるスタッフは疲労の限界を超えており、それに起因する人間関係などのトラブルも相次いだ。いま振り返ると、コロナ禍で最もしんどい時期でした」
極度の疲労から来るトラブルとはどんなことなのか、そしてその危機をどう乗り越えたのか。 (取材・長田昭二)