農作物を荒らすダニの一種、ナミハダニとカンザワハダニはイモムシの“足跡”を避けるとする論文を京都大学が発表した。肉食性のアリの足跡を避けることは先行研究で判明していたが、草食性のイモムシに対しても同じ反応をすることを世界で初めて発見したという。ダニが嫌う物質を特定できれば、天然物質由来の忌避剤(虫よけ剤)も開発できるとしている。
ナミハダニとカンザワハダニはリンゴなどの果樹、ナスなどの野菜、豆類などの畑作物の葉や実に寄生するハダニの仲間で、体長は0.5ミリメートル程度だ。農林水産省は化学農薬で対策をとるよう勧めているが、ハダニは世代交代が早く抵抗力が発達しやすいため、同じ系統の農薬を使い続けると効果が維持できなくなると農家に注意を促している。
人間にとって退治しにくい厄介な害虫だが、京大は昨年10月、ハダニは捕食されないようにアミメアリとクロヤマアリの足跡に残る化学物質を避けるという論文を発表。ダニが肉食のアリから逃げるのは「自然の摂理」だとして、アリの足跡の化学物質を分析することで、ダニに耐性をつけさせない虫よけ剤の開発が可能になると見通しを語った。
京大大学院農学研究科修士1回生の金藤栞氏、京都工芸繊維大学の秋野順治教授、京大大学院農学研究科の矢野修一助教らの研究チームは、アリ以外のさまざまな生き物がハダニの被害を抑制して生態系のバランスを保っていると考え、ハダニの卵を葉ごと食べてしまうイモムシに着目。ハダニは子孫を残せなくなる「大災害」を避けるために、イモムシと出会わない方法を知っていると仮説を立てた。
研究チームによると、ハダニの子はメスが張った網の中で育つため、ハダニの「居場所」を決めるのはメスだという。カイコ、セスジスズメ、ナミアゲハ、ハスモンヨトウのイモムシのいずれかが表面を歩いたインゲンマメの葉と、イモムシが歩いていない葉をそれぞれ並べて、ナミハダニとカンザワハダニのメスがどちらに定着するかを調べた。すると、ほとんどのハダニはイモムシが歩いていない葉を選んだ。成長してチョウになる種類とガになる種類のイモムシが含まれていたが、一様にハダニから避けられていた。
さらにカイコの足跡から抽出した成分を用いて同様の実験を行い、ハダニが足跡の抽出物を避けたことから、ハダニはイモムシの足跡に残った化学物質を嫌っていると結論づけた。また、足跡を避ける効果がどれだけ続くかをハダニとイモムシの種類ごとに調べると、カンザワハダニはカイコの足跡を2日以上避けることが分かった。
ハダニはアリの足跡から抽出された成分も避けるが、イモムシが出すのはアリとは異なる「自然界にありふれた天然物質」であり、イモムシの“足跡成分”の分析が天然物質由来で効果が長持ちする虫よけ剤の開発につながると研究チームは訴えた。どの成分が効果的かは明らかになっていないが、寄生する植物が違うイモムシや、家畜化されて野生で出会うことがないカイコのイモムシまでハダニが避けていたため、一般的な物質がかかわっている可能性があるとしている。