故郷から消えゆく「昭和の無料電話」 スマホの普及で撤退相次ぐ

産経ニュース
大社町有線放送電話協会時代の交換手(大社ご縁ネットワーク提供)
大社町有線放送電話協会時代の交換手(大社ご縁ネットワーク提供)

一般加入電話や携帯電話が普及する前の昭和30~40年代に、農村や漁村で情報通信システムとして広がった有線放送電話が役割を終えようとしている。有線放送電話とは、市町村や農協、漁協などが地域内で敷設した固定電話兼放送設備。島根県出雲市大社町でも3月末で設備の老朽化などに伴い、事業が終了する。通信料無料で通話できたり、地域の身近なニュースを提供してきたりしただけに、惜しむ声も多い。

家庭用電話が街頭に置かれているように見える有線放送電話=島根県出雲市大社町
家庭用電話が街頭に置かれているように見える有線放送電話=島根県出雲市大社町
公衆電話のように街頭にある有線放送電話=島根県出雲市大社町
公衆電話のように街頭にある有線放送電話=島根県出雲市大社町

無料かけ放題の電話

出雲大社のおひざ元であるこの町を走る一畑電車の出雲大社前駅の傍らには、公衆電話のようなボックスが置かれていた。しかし、その中には家庭用電話が1台。これが町内限定でつながる有線放送電話だ。各家庭などに割り振られた5桁の番号を押すと、相手先につながる。

観光で訪れていた大阪市東住吉区の会社員、高木登喜耀さん(24)一行がタクシーを呼ぼうと受話器を上げても、使い方がわからず、携帯電話でタクシー会社に連絡を取った。システムを説明すると「初めてみたので公衆電話かと思った。携帯を使わない高齢者の人には便利でしょうね」と驚いていた。

運営するNPO「大社ご縁ネットワーク」理事長の石田晴吾さん(83)は「現在、有線放送電話は屋外に39カ所と、約2600の町内の各家庭に設置しています」という。家庭用は月額使用料1445円(税込み)を払えば、通話は無料だという。

大社町で生まれ育った会社員女性(53)は「学生時代はNTTの電話で話すと通話料がかかって親にしかられるので、有線電話で友達と長電話をしていたものです。家には有線電話とNTTの電話の2台があるのが普通でした」と振り返る。

有線放送の準備をするNPO職員=島根県出雲市大社町

かつての加入数は9割超

大社町では、昭和39年に町有線放送電話協会が開局し、情報通信サービスがスタートした。2交代の交換手16人が相手を呼び出して架電を知らせるアナログ方式で、その後、自動化などを経てサービスを向上させてきた。町が出雲市と合併した平成17年に同ネットが市の指定管理者となり、事業を続けてきた。

昭和47年には加入数4233件で世帯加入率は90・4%にのぼったという。

母親が食堂を営んでいたという石田さんは「出前の電話を受けるために加入しましたが、開局当初は加入権が5万円。当時の高卒初任給が6千円ほどの時代ですから、高額ではありましたが必要なものでした」と話す。また、学校やスーパーにも有線電話が置かれ、子供たちや高齢者が家族に迎えを頼むなど、町民の暮らしに役立ってきた。

ただ、昨年12月時点で、加入数は2659件にまで減少し、加入率は48・9%と5割を切った。石田さんは「携帯電話の普及などで、必要性が薄まり、新しく入ってきた住民へも浸透しなかった」という。

そして、設備の老朽化や修理部品の調達が困難になったこともあり、指定管理者制度の更新時期である3月をもって、事業の廃止が決まった。

有線放送電話をかける観光客=島根県出雲市大社町

機材は長野へ、つながる輪

また、同ネットは有線放送電話の設備を活用して1日3回の定時放送も流している。平成10年までは電話から有線放送が聞こえるシステムがあり、現在は各家庭にスピーカーが設置されるようになったが、その重要性は変わっていない。

「おはようございます。遙堪(ようかん)幼稚園の〇〇です。好きな遊びは絵を描くことです」

大社町では午前6時半から有線放送から流れる地元の子供の声とともに一日が始まり、ゴミ出しや修学旅行で県外に出た子供たちの状況なども流れる。また、交番が迷い犬の放送をしたり、社会福祉協議会が健康運動教室の案内をしたりと独自の放送も可能で、生活に密着した情報を提供してきた。

事業の廃止に伴い、町民が特に気にしているのがお悔やみの放送だという。「お悔やみを聞くために契約を継続してきた人もいる」(石田さん)ほど、地域では重要な情報も、今後は流れてこなくなる。

県内でも近年、松江市八束町や大田市で事業が廃止されるなど撤退が加速している。総務省によると、平成23年に有線放送電話法が廃止され、新規の許可が出なくなった。担当者は「新規で開業できなくなっただけで、継続はできる。現在承知している事業者は33で、東北と信越が多い」と話す。

「時代の変化でさみしさはあるが、仕方がないとも思う」という石田さんだが、大社町の機材は、長野県の有線放送事業者から譲渡してほしいと依頼を受けている。「大社町の機材も、10年ほど前に広島県北広島町の事業者から譲ってもらったもの。また、どこかで活躍してくれればうれしい」と話した。(藤原由梨)

かつて使われていた有線放送電話。電話機から有線放送が流れてくるシステムだった

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