ロシアによるウクライナ侵略開始から1年を迎えた。欧米諸国の支援を受けたウクライナ軍は善戦し、国民の士気も高い。だが、侵略者の撃退はいまだ見通せない。
バイデン米大統領はウクライナの首都キーウを電撃訪問し、防空警報が鳴り響く中、ゼレンスキー大統領と並んで歩み、「揺るぎない支持」を表明した。
これに対し、プーチン露大統領は一方的に併合したウクライナ東南部4州とクリミア半島の支配を続けると言明した。明らかな国際法違反であり、世界平和に対する挑戦を許すことはできない。
主要各紙の社説はこうしたロシアの軍事侵攻を一斉に非難し、「露軍の撤退」を強く求める論調で一致した。
産経は「冷戦終結後の世界の秩序を破壊し、国際法を踏みにじって恥じない。最大限の非難に値する」とプーチン大統領の暴挙を厳しく批判し、「ロシア軍は全占領地から即時無条件で撤退すべきである」と要求した。
読売は「世界は、『力の支配』に屈するかどうかの分岐点に立っている。各国は自分の身に置き換えて危機感を共有し、法に基づく国際秩序の回復に努めなければならない」と訴えた。
朝日も「戦争を終わらせられるのは、戦争を始めたロシアだけだ」と指摘し、「プーチン大統領に改めて強く求める。侵略をやめ、ウクライナから軍を撤退させよ」(2月24日付)と呼びかけた。
「プーチン露大統領はウクライナの『非ナチ化』や、欧米からの『祖国防衛』を掲げて侵攻を正当化してきた」と指摘した毎日も「明らかな国際法違反で、ロシアは直ちに攻撃を停止し、撤退しなければならない」(23日付)と難じた。
今年、先進7カ国首脳会議(G7サミット)の議長国となった日本の役割のほか、日本を含む国際社会の外交努力の必要性を訴える論考も相次いだ。
「岸田文雄首相は連帯と結束を主導しなければならない立場だ」と強調した産経は、「岸田首相がキーウの地に立つことこそ、ウクライナを勇気づけ、日本の国際的信頼と存在感を高める。訪問を必ず実現してもらいたい」と岸田首相のウクライナ訪問を改めて求めた。
読売は「ウクライナの国民が満足する形での停戦や、侵略を二度と受けない安全保障の枠組みをどう実現していくか。米欧日には引き続き、適切かつ強力な支援が求められる」と指摘した。
一刻も早い戦闘停止を求めた日経は「外交圧力も必要だ」と論じた。そのうえで停戦を求める国連決議について「法的拘束力はないが、ロシアの孤立を浮き彫りにするためにも繰り返し決議する意義は大きい」とロシア包囲網の有効性に言及した。
朝日も「『法の支配』で国連加盟国が結集し、国際社会の一致した対応を促す。そんな国連のありように向け、日本などが改革を主導していくことを望む」と求めた。
注目したいのは、中国に関する各紙の論考である。産経は「力による現状変更を狙う中露両国の接近、とりわけ中国による対露武器供与を西側は防がなければならない」と訴えた。
東京も中国が武器供与に踏み出した場合、「戦争は米中ロ三大国の代理戦争へと様相を変えて国際社会の危機が高まる」と警鐘を鳴らし、日経も習近平国家主席が訪露する観測があるとし、「中国には大国としての責任を果たすことを期待する」と論じた。
5月には広島でG7サミットが開かれる。「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」と語る首相に求められるのは、議長国としてG7各国とウクライナ支援で連帯し、明確なメッセージを発することである。それが日本を含む東アジアの平和と安定に直結する。(佐々木類)
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■露の侵略1年をめぐる主な社説
【産経】
・ウクライナと連帯強めよ/岸田首相はキーウ訪問果たせ(2月24日付)
【朝日】
・戦争の理不尽許さぬ知恵を(24日付)
・平和への歩みと知見生かせ(25日付)
【毎日】
・露は直ちに攻撃の停止を(23日付)
・軍民の境界を崩す危うさ(24日付)
・破滅の道避ける知性こそ(25日付)
・途上国の不信拭う行動を(27日付)
【読売】
・暴力の支配許さぬ決意と連帯/ウクライナの抗戦を支えよう(24日付)
【日経】
・ウクライナ勝利が自由と秩序守る(24日付)
【東京】
・和平の道筋を探らねば(24日付)