なぜ奄美大島で進んだ電子契約50%超 脱ハンコ・印紙がもたらすメリット

産経ニュース
弁護士ドットコムの担当者が出席した電子契約の事業者説明会=長野県高森町(弁護士ドットコム提供)
弁護士ドットコムの担当者が出席した電子契約の事業者説明会=長野県高森町(弁護士ドットコム提供)

作業時間の短縮や印紙代の削減などを理由に地方自治体で電子契約の導入が広がっている。鹿児島県奄美市では導入から7カ月で契約全体の50%超が電子契約となったほか、複数の自治体が今年4月からの導入を計画している。奄美市のような離島ならではの事情や人員不足といった理由とともに、小規模自治体の意思決定の速さや中小企業側のメリットなども導入を後押ししている。労働力不足や人口減少による税収減など厳しさを増す地方だが、課題解決に向け、行政手続きのDX(デジタルトランスフォーメーション)化が加速している。

奄美市では昨年6月に電子契約システムを導入、今年1月末までに460件の契約をオンラインで締結し、これまでに全体の52%が電子契約に切り替わった。

GMOグローバルサイン・ホールディングスが提供する電子契約サービスの画面(同社提供)
GMOグローバルサイン・ホールディングスが提供する電子契約サービスの画面(同社提供)

従来の紙での契約では書類を作成して製本、自治体と事業者がともに押印する必要があり、郵便などで書類を往復する手間があった。電子契約は紙への押印・署名に代わり、インターネットを介して契約を交わす。奄美市が使うシステムではクラウドに保存された契約書ファイルに電子署名して契約内容はデータで保存・管理する。契約相手はメールで送信されたURLからファイルにアクセスする。

同市の契約・検査指導課の担当者は「紙の契約業務に不便さを感じていたわけではなかったが、導入すると大きな効果があった」と語る。

市の年間の契約数は建設工事や業務委託など約1700件。島外への郵送に5~6日かかったり、悪天候で船が欠航したりすることもあったが、電子契約ではそうした時間や手間が不要となる。

さらに従来の契約で必要だった収入印紙が不要となるため、事業者側にもメリットがある。これまで数万円の印紙代が必要なケースもあったが、電子契約では費用負担がなくなった。同市も契約1件あたり作業時間が20~30分短縮され、ペーパーレスなどで年約250万円の経費削減を見込む。他の自治体から導入方法などを尋ねる問い合わせが相次いでいるという。

九州・山口地区では佐賀県小城市や福岡県苅田町などが4月からの電子契約導入を予定し、山口県や宮崎市なども運用を始めている。福岡市も昨年12月に試行導入した。

このうち小城市は昨年DX推進計画を策定し、受発注者双方の負担軽減や、オンラインでのやり取りが感染症対策になる点などを考慮し、導入を決めた。競争入札に関わる契約からスタートして全庁に広げる予定で、財政課の担当者は「限られた人員で業務を効率的にこなすにはDXが必要だ」と話した。

■事業者の対応課題

これまで自治体が事業者と電子契約を結ぶには、本人確認のための電子証明書活用が求められるなどのハードルがあったが、令和3年に地方自治法の施行規則が改正され、電子契約を導入する環境が整った。総務省やデジタル庁もDX化を推進しており、今後導入が加速するとみられる。

電子契約プラットフォームを提供する弁護士ドットコム(東京)によると、サービス導入に幅広い自治体が関心を示すが、規模が小さい市町村の方がスピードが速いという。大きな自治体は部署や契約規模を限定してスタートし、徐々に広げる比率が高く、利用率上昇も遅い傾向がある。契約する事業者数が少ない自治体ほど、窓口などを通じて丁寧に電子化を勧めることができるが、契約相手が多い自治体は周知に十分に手が回らず、事業者の理解が深まるのに時間がかかることが影響している。

一方で事業者側のDX対応も課題となっている。昨年同社のサービスを活用した企業は上場企業が27%に対し、非上場企業が73%と非上場企業が圧倒的に高かった。同社は「コロナ禍で多くの企業でDX化が進められてきたが、中小企業の方がトップが号令をかければすぐに動く印象。大企業にとって業務フローの変革は数年がかりのプロジェクトになる傾向がある」と分析する。

一方、奄美市などがシステムを導入しているGMOグローバルサイン・ホールディングス(東京)によると、導入する自治体や企業に規模は影響していないが、印紙代などの経費負担は大企業より中小企業の方が相対的に大きくなる。事業者の要請に応じて電子契約の検討を進める自治体もあるといい、担当者は「電子契約を活用したDXは限られた人手や資金を有効に使える点で、中小企業の支援に寄与すると考える自治体も多い」と説明した。(一居真由子)

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