Q 70代男性です。令和4年7月、鼠径(そけい)ヘルニア手術前に受けた精密検査で、PSA(前立腺特異抗原)値が12・9と中程度の高さをマーク。12月の大学病院での精密検査で、がんの悪性度を示すグリーソンスコアは3+4=7(悪性度は中程度)、前立腺生検で組織を採取した針14本のうち11本からがんが検出されました。
MRI検査の結果、がんは前立腺内にとどまり、骨やリンパ節への転移はなく、がんの進行度を示す「TNM分類」は「T2N0M0」で、ステージⅡの前立腺がんと診断されました。
手術や放射線治療をすすめられたのですが、今の状態でどちらを選択したらよいのか悩んでいます。
A 転移がない前立腺がんの根治治療には、手術や放射線治療があります。主治医からあなたにとって「嫌じゃない」治療法の選択をすすめられたとのことですが、手術を選んでも、放射線治療を選んでも、生存率に大きな差はありません。
転移のない前立腺がんであれば、10年以内に前立腺がんが原因で亡くなることは、ほぼありません。あとはどのような副作用または、障害が予測されるかです。
Q 手術に伴う副作用について教えてください。
A 生検によって針14本中11本でがんが検出されたということは、前立腺の両側の広い範囲から、がんが検出されているとみられます。
前立腺がんの発生部位によっては、手術に伴って周囲をはしる勃起神経や、尿道括約筋(かつやくきん)にダメージを与えざるを得なくなり、性機能障害や尿漏れが起きます。尿漏れの大部分については、時間の経過とともに改善しますが、重症化のリスクはごく一部で残ります。
最近は、ロボット手術で開腹せずに手術ができるようになり、体力的に楽になってきていますが、それでも個人的な差があります。70代後半になれば少し大変かなと思います。
Q では放射線治療はどうでしょうか。
A グリーソンスコアが7なので、転移のない前立腺がんの中では中間リスクとなります。この場合、ホルモン(内分泌)治療を半年間行いながら、放射線治療をすることによって、治療効果が上がることが分かっています。
その一方で、分泌や働きを抑制された男性ホルモンの回復には1~2年はかかります。その間は更年期障害の症状に似た、のぼせや発汗、肥満や性欲の減退などが起こることがあります。
また、放射線を当てることで、約2~5%の患者で直腸や膀胱(ぼうこう)から軽い出血が起こります。ただ、出血し続けて困るという人は0・5%もいないと思います。
尿漏れはあまり起きませんが、尿が出にくくなったり、尿意や便意が近くなったりはします。そのあたりが手術とは違います。手術と同様に性機能障害も起こります。
Q 放射線治療には外照射療法(強度変調放射線治療=IMRTなど)や組織内照射療法(密封小線源療法)があると聞きます。
A 放射線の種類による治療効果は、しっかりと患部に照射できれば、大きな違いはありません。ただし、尿の勢いが非常に悪い方や、頻尿がひどい方には、これらの症状が悪化する可能性が高く、小線源療法はおすすめしません。
いろいろと事例を並べましたが、多くの副作用を皆さんが乗り越えておられます。
治療期間や通院の都合などを総合的に検討して、手術か放射線治療のどちらかの治療を受けられることをおすすめします。
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