こんな作品を帝国劇場で見たかった-。そんなスケールの大きな新作が誕生した。身分の低い少年の友情と立身出世の夢、中華を統一しようとする王の野望、その原点ともいえる悲しい過去…。ストーリーを知っている人も知らない人も、一気に引き込まれる迫力ある舞台だ。
原作は「週刊ヤングジャンプ」で連載中の原泰久の漫画。アニメ化され、実写映画にもなっている。紀元前3世紀、初の国家統一をなしとげた嬴政(えいせい、後の始皇帝)と臣下の信(李信)の2人を軸にした壮大な歴史物語のうち、今回は異母弟の反乱で玉座を追われた嬴政が、再び王宮に返り咲くまでの冒頭の5巻分を舞台化した。
信役に、共にダンスに定評ある若手俳優の三浦宏規と高野洸のWキャスト。身分や立場、生と死といったあらゆる壁に、文字通り全身でぶつかっていく信を泥臭く演じた三浦は、特にはまり役だ。少しクールな高野との差も見ごたえがある。信の幼なじみの漂(ひょう)と、うり二つの嬴政(政)の2役を、小関裕太と牧島輝がWキャスト。小関の政は、線の細さと強いカリスマ性を両立させて魅力的だ。対する牧島は人情味が強い。
プライドが高く野心家で冷徹な王と思いきや、政の原点である紫夏(朴璐美、石川由依)とのエピソードを2幕頭に挟み込んでくる脚本(藤沢文翁)がうまい。これにより、つかみどころのなかった政というキャラクターが立体的に浮かび上がり、信の物語が、信と政、2人の物語として腑に落ちる。
情感たっぷりの朴に泣かされ、早乙女友貴演じる凄腕の人斬り、左慈の剣技にほれぼれ。漫画やアニメを原作とする2・5次元舞台で活躍する若手も多く出演する中、王騎を演じた山口祐一郎が誰より大きな存在感でキャラクターを際立たせたのはさすがだ。主要人物の中で数少ないシングルキャストの昌文君(小西遼生)の安定感も目を引く。
ミュージカルでも活躍する俳優たちを多く配しながら、歌は〝封印〟。一方で生のオーケストラで作品のスケール感を表現する。次々と入れ替わる舞台セット(美術=松井るみ)と、分かりやすく華やかな衣装(中原幸子)も世界観を体現し、目も耳も楽しませてくれる。何より、紫夏が命がけで政を守る理由である「恩恵はすべて次の者へ」のメッセージが、終演後も心に響く。
すでにアニメも実写映画もある中、なぜ舞台に、という問いの答えは、見ればわかるはずだ。演出の山田和也の掌の上で、この先の信と政の物語も追いかけたくなった。
27日まで、東京・日比谷の帝国劇場。大阪、福岡、北海道公演あり。問い合わせは東宝テレザーブ(03・3201・7777)。(道丸摩耶)