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プロボクシング元世界王者・タレント ガッツ石松<19> お茶漬け1杯で激闘15回…失冠

産経ニュース
昭和51年5月、6度目の防衛戦が行われたプエルトリコからの帰国の機中で。手前左が本人、隣は妻の正子さん
昭和51年5月、6度目の防衛戦が行われたプエルトリコからの帰国の機中で。手前左が本人、隣は妻の正子さん

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《世界ライト級王座の5度目の防衛を果たし、減量苦から1階級上のジュニアウエルター級への転向を宣言したが、計画通りには進まず、昭和51年5月、6度目の防衛戦を海外で行うことになった》


自分の構想は、ライト級王座を保持したまま世界Jウエルター級王座を奪取して2階級制覇を達成、その後、ライト級タイトルは返上するというものだったのですが、そんな甘いものではなかった。ボクサーとタレントの「二足のわらじ」生活を続けているうちに、半年以内という次の防衛戦の期限が迫ってきてしまい、とにかくもう一度、ライト級選手として6度目の防衛戦に臨むことになったのです。

ただ、この防衛戦は、興行に米国の大物プロモーターが暗躍し、日本のテレビ局間の競争も絡み、入札の結果、WBCが指名した挑戦者、エステバン・デ・ヘススの地元プエルトリコで行われることになったのです。

それまでに日本の世界王者で、海外で防衛戦を行った先輩は3人いましたが、いずれも負けていた。また、この3例はいずれもリターンマッチでした。日本選手が挑戦した時点で、もし勝ったら前王者の地元で防衛戦を行うという契約になっていたのです。私もヨネクラジムの米倉健司会長も海外防衛は全く心外でした。ただ、ファイトマネーが20万ドル(当時の為替レートで約6千万円)と、過去5回の防衛戦よりも高かったことだけがモチベーションでした。


《ヘススは世界的にも名前の通った強豪だった》


あの時点で、WBA世界ライト級王者のロベルト・デュランとは1勝1敗で、デュランに初黒星をつけた選手として知られていた。しかし、私にとっての難敵はヘススではなく、5度目の防衛戦同様、減量でした。

試合は5月8日にプエルトリコのサンフアンで行われることが決まり、私と米倉会長らの一行は4月22日に羽田空港からサンフアンに向かいました。67キロまで落としてから日本をたったので、ライト級リミットの約61・2キロまで絞るのは前回防衛戦よりも楽かと思ったのですが、そうはいかなかった。

水も食べ物も気候も環境も日本とは異なり、体調を維持しながら体重を落とすのは、予想していたこととはいえ、至難でした。結局また、試合前日にほぼ夜通しで唾をバケツに吐いて、何とか計量をクリアしました。

しかし、そこからがまた悲惨だった。それまでの防衛戦では、計量後はしっかり水分を補給して食べて、夜、リングに上がるまでには体重を70キロぐらいに回復させることができたのですが、あのときは水も食べ物も計量直後は体が受け付けず、戻すばかり。ようやく夕方になって水は飲めるようになり、最終的にリングに上がるまでに腹に入ったのは水と1杯のお茶漬けだけでした。


《試合はヘススの速い動きに対応できず、完敗した》


私の見せ場は、三度笠姿でリングに上がり、その「異国情緒」が観客に大受けしたことだけでした。とにかくガードを固めてカウンターを狙い、一発逆転の「幻の右」にすべてを賭ける以外に手はなかった。

結果は0―3の判定負け。しかもいずれの審判のスコアも10ポイント以上の大差がついていた。

闘志の感じられない試合と批判されましたが、私にしてみれば、あのコンディションでよく15回も戦えたものだと自分で自分に驚嘆しました。世界王者になる以前の私なら、2回か3回で試合を投げていたでしょう。

6度目の防衛戦で敗れ、私の世界王座君臨は2年1カ月で終わりました。日本への帰国の機中では、応援の観戦に来てくれていた妻の正子と今後のことを話し合い、もう十分やったし、ボクシングは引退することを「決心」しました。

しかし、なかなかそうはいかないのが、ボクシングで一度はいい思いをした者の性(さが)なのです。(聞き手 佐渡勝美)

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