小山さんが震えるのも無理はない。子供の頃に奨励会試験を受け、社会に出てからも全国大会優勝者の権利で、三段リーグの試験を受けたほどなりたかった、プロ棋士だったからだ。
対局後のインタビューでも「夢をかなえることができて、本当にうれしく思います」という言葉が出てきた。
彼が前の2人と違うのは、奨励会を経験していないこと。リコーに勤務していて、純粋なアマが試験でプロになったのは初めてだ。
また岩手県出身の棋士誕生も、初めてである。これで東北地方は、全県出身棋士が出たことになる(福島県は生存棋士がいないが)。
とはいえ奨励会を目指す人で、最初から棋士になるだけが目的な人はいないはず。
三段リーグの頃は、まさに飢えた狼だったような少年が、棋士になった途端、安心して向上心がなくなり、遊び回って上がれなくなった例を、私は何人か見てきた。
現在はそういう人はいないだろうが、故芹沢博文九段が言った「四段になって喜んでいるような奴は、将棋連盟には要らない」の、言葉通りの棋士になってほしいと思うのである。
■青野照市(あおの・てるいち) 1953年1月31日、静岡県焼津市生まれ。68年に4級で故廣津久雄九段門下に入る。74年に四段に昇段し、プロ棋士となる。94年に九段。A級通算11期。これまでに勝率第一位賞や連勝賞、升田幸三賞を獲得。将棋の国際普及にも努め、2011年に外務大臣表彰を受けた。13年から17年2月まで、日本将棋連盟専務理事を務めた。