ロシアのウクライナ侵攻から24日で1年となる。穀物大国である両国の輸出制限による小麦価格の高騰に加え、肥料や飼料の高止まりが国内の食品企業や農家に大きな打撃を与えた。同時に食品だけでなく、農産物の生産面でも日本の過度な輸入依存体質が顕在化。国民の食料を安定的に調達する「食料安全保障」の脆弱(ぜいじゃく)さが浮き彫りとなり、改めて日本農政の停滞ぶりもあぶり出された。
「小麦を中心にした食料品、生産に欠かせない資材や原料の価格が高騰し、農林漁業者全てに大きな影響を与えた1年だった」。野村哲郎農林水産相は10日の会見でロシアのウクライナ侵攻後の1年を振り返り、高止まりする農業生産資材の価格補助などの支援を着実に進めると強調した。
事実、ロシアのウクライナ侵攻による穀物流通量の減少に歴史的な円安が重なり、輸入品価格は高止まった。農水省が先月末発表した令和4年の農業物価指数(概数)は、生産資材が116・6(2年=100)で、統計が残る昭和26年以降で最高となった。コスト増が農家経営を圧迫し、海外情勢に左右される日本農業の弱さが露呈した。
こうした状況に、政府は肥料や飼料価格の高騰分の一部を補助したり、特定の国の輸入に頼る化学肥料の原料について輸入国を分散化するなど対応。政府が製粉業者へ売り渡す輸入小麦の価格を昨年10月から半年間は据え置き、食品業者への負担軽減も図った。
だが、これらの対応は「一時的な止血措置であり、日本農業が抱える根本的な課題解決に至らない」(資源・食糧問題研究所の柴田明夫代表)。ウクライナ侵攻後に如実に現れたのは、自国の食料確保を優先するために主要食物の輸出規制に乗り出す各国の姿で、「さまざまな輸入先を確保しておけば、食料安保に備えられるとしていた前提が崩れた」(東京大大学院の鈴木宣弘教授)。
少子高齢化による農家や農地の減少が止まらない恒常的課題を抱え、島国なことから食料安保上のリスクも大きい日本。こうした課題を踏まえ、政府は農政の基本方針を定めた「食料・農業・農村基本法」を平成11年の施行以来、初めて見直し、来年度中に改正案の国会提出を目指す方針だ。
ただ、「国内の農業生産の増大を図ることを基本」と明記した基本法の理念に現状は逆行しており、基本法そのもの形骸化も指摘される。現状打破には、基本法の抜本的な見直しと、その実効性を担保するための改革が不可欠だ。政府の〝本気度〟が試される。(西村利也)