日本銀行の次期正副総裁の人事案が14日、衆参両院に提示され、新体制への移行手続きが進み始めた。当面の最大の焦点は政府と日銀の共同声明の行方だ。2%の物価上昇目標について「早期に実現することを目指す」と記され、「異次元の金融緩和」のよりどころとなってきた。次期総裁として提示された植田和男氏のかじ取り次第では、日銀の金融政策は転換点を迎える可能性もある。
「アベノミクスの成果の上に立って新しい時代に向けて持続可能な経済をつくる」。岸田文雄首相は8日の衆院予算委員会で、今後の経済政策についてこう語った。共同声明の見直しに関しては具体的な言及を避けたが、岸田政権は見直す方向で調整している。
たたき台となりそうなのが、有識者らで構成する「令和国民会議(令和臨調)」が今年1月に行った提言だ。共同声明を改定し、2%の物価上昇率を「長期的な目標」として位置付けるように求めた。
共同声明は第2次安倍晋三政権下の平成25年1月22日に策定された。日銀は政府とのすり合わせを経て、同日の金融政策決定会合で2%目標の導入を決めた。
その年の春には黒田東彦(はるひこ)氏が総裁となり、異次元緩和が始まった。10年がたち、足元の消費者物価指数(除く生鮮食品)の上昇率は4%超とみられるが、賃金上昇が伴わず国民の生活を圧迫。市場機能の低下など副作用も指摘される。
野村総合研究所の木内登英(たかひで)エグゼクティブ・エコノミストは「岸田政権は共同声明を見直すことで、日銀がより柔軟な金融政策を行えるよう道を開こうとしているのではないか。それを政府が主導する形で行いたいのだろう」と解説する。
ただ、拙速な共同声明の改定には、慎重論も少なくない。ソニーフィナンシャルグループの渡辺浩志シニアエコノミストは「新総裁が就任するたびに改定することになれば、中央銀行としての独立性や信認に傷がつく」と危惧する。木内氏も「日銀は独自に目標の位置づけを中長期の目標などに修正するだろう」との見立てを示す。(米沢文)