学業の成績やテストの点数のように数値化できないが社会的成功に影響するとされる「非認知能力」について、子供のスポーツ活動を通して定義し、5つの要素で測定できるとした論文を九州大学大学院人間環境学研究院の河津慶太氏らの研究グループが発表した。今後も研究を重ねることで、小学生向けの教育プログラムの開発に寄与できるという。この研究に関する論文はデジタル領域を中心に学術論文を広く掲載する電子ジャーナル「Journal of Digital Life」(ジャーナル・オブ・デジタル・ライフ)で公開されている。
文部科学省が実施する子供の学習費調査によると、2021年度の小学生一人あたりの年間学習塾費は私立が27万3629円、公立が8万1158円で、いずれも前回調査を上回った。特に私立の小学生にかける学習塾費は同年度の私立・公立の高校生や大学生より高く、私立の小学5・6年生がいる家庭に限定すると支出平均は50万円台だった。
教育熱の過熱に伴う出費の拡大は、課金でキャラクターを強化するスマートフォン向けゲームにも例えられる。どちらも目に見える数字で成果を確認できるのが共通点だ。テストの点数などで数値化できる「認知機能」とは逆に、社会のルールを守れる、周囲と協力できるといった数値化しにくい能力は非認知能力と呼ばれている。先行研究によると、非認知能力は将来の賃金の高低だけでなく犯罪率や心身の健康にも影響するという。
非認知能力の重要性は知られていたが、意味する範囲が広く、定義があいまいだった。しかし非認知能力に相当する言葉は他にもあると研究グループは指摘している。
例えば、経済協力開発機構(OECD)は「長期的目標の達成、他者との協働、感情の管理の3つの側面に関する思考、感情、行動のパターン」を「社会情緒的(情動的)スキル」と呼んでいる。また、世界保健機関(WHO)が「日常生活で生じる様々な問題や要求に対して、建設的かつ効果的に対処するために必要な能力」を「ライフスキル」としているという。
こうした例をもとに、研究グループは同論文で非認知能力を「自己実現・自己高揚・自己保全等の欲求の充足を可能にする個人的な性質と、他者との関係性の構築や維持にかかわる社会的な性質を含む、思考、感情、行動のパターンである」と定義した。測定可能であり、意図的に成長をうながすことでポジティブな成果が見込めると述べている。
重要な因子「自己管理能力」など
幼児期や児童期において、スポーツ活動が非認知能力を高めるのに効果的だと考えられることから、研究グループは小学生を対象にスポーツを通して育成可能な非認知能力を測定する尺度の作成を試みた。同研究にはスポーツスクールの運営などを手がけるリーフラス社、スポーツ心理学を専攻する研究者らが協力した。
先行研究を参考にしたり、同社のスポーツ指導者らに「選手がどのように成長したら指導が成功したといえますか」とアンケート調査を行ったりして、行動パターンを167項目にまとめた。その後、各項目に「1(まったく当てはまらない)」から「5(非常に当てはまる)」の5段階で回答する予備調査を、同社のスポーツスクールに通う児童346人(男子318人、女子28人、平均年齢約8.9歳)を対象にオンラインで行った。
その結果をもとに、研究グループは本調査をオンラインで実施。回答したのは同社スポーツスクールに通う児童で、予備調査に参加しなかった1171人(男子1025人、女子146人、平均年齢約8.77歳)だった。
本調査の結果を分析したところ、子供の非認知能力の測定には「自己管理能力」「課題解決力」「協調性」「リーダーシップ」「挨拶・礼儀」の5因子が重要であることが分かったという。研究チームは、これらの能力は成長とともに獲得できるものではないとして、親や教師とのかかわり方が子供の能力向上に影響する可能性があるとしている。
非認知能力の定義を明確にして、小学生にとって重要な5因子を特定したことには大きな意義があると成果を強調する一方で研究グループは、スポーツを通して獲得した非認知能力が日常生活でも発揮されるかどうかを検討する必要があるとした。大学生アスリートらの不祥事が報じられているように、アスリートとしての成長が人間としての成長と直結しないケースがあるという。
非認知能力の定義を明確にして、小学生にとって重要な5因子を特定したことには大きな意義があると成果を強調する一方、研究グループはスポーツを通して獲得した非認知能力が日常生活でも発揮されるかどうかを検討する必要があるとした。大学生アスリートらの不祥事が報じられているように、アスリートとしての成長が人間としての成長と直結しないケースがあるという。
また、予備調査と本調査に参加した子供は男子がほとんどだったことを「本研究の限界」に挙げた。今回はスポーツスクールの指導方針を鑑みて男女差を勘案しなかったというが、児童期の発達段階を考えると性別の違いが結果に影響することが考えられるため、今後は女子のデータを増やすべきだとした。