長距離走などの持久系運動のパフォーマンスに影響を及ぼす腸内細菌を特定したと、慶應義塾大学などの研究グループが発表した。持久力を維持するエネルギーを効率的に作り出す腸内細菌で、細菌の量が多いほどパフォーマンスが高く、栄養源とするオリゴ糖の一種を摂取することでさらにパフォーマンスを高めることができるという。腸内細菌の活用で運動パフォーマンスを引き上げられる可能性を示す結果で、研究グループは「将来的にはスポーツ分野や飲食料品分野への応用が期待される」としている。
菌が多い人ほど高いパフォーマンス
研究では、青山学院大学の陸上競技部(長距離ブロック)に所属する48人の男性学生(以下、アスリート群)と同年代の一般男性10人を対象に、腸内細菌の構成(腸内フローラ)の違いについて比較調査を行った。その結果、アスリート群の腸内には腸内フローラの主要な構成細菌の一種である「Bacteroides uniformis」(バクテロイデス・ユニフォルミス)が多く生息していた。
さらに、アスリート群のうち3000メートルの走行タイムを提供した25人を対象に、バクテロイデス・ユニフォルミスの菌数と走行タイムの相関関係を調べたところ、バクテロイデス・ユニフォルミスの菌数が多い人ほど比例して走行タイムが速まることがわかった。
運動に必要なエネルギーを効率的に産生
パフォーマンスが高まるメカニズムを調べると、バクテロイデス・ユニフォルミスによって腸内で産生される「酢酸」と「プロピオン酸」が、運動中に肝臓でのグリコーゲン分解や糖質以外の物質からグルコース(ブドウ糖)を作り出す「糖新生」などの活動を促進し、運動に必要なエネルギーを全身に供給していることがわかった。さらにバクテロイデス・ユニフォルミスが栄養素とするオリゴ糖の一種である「α-シクロデキストリン」を摂取すると、持久運動のパフォーマンスをさらに向上させる可能性があるという。
人の腸内には多種多様な細菌が約40兆個存在するとされ、その構成バランスが健康や疾患に大きな影響を与えていることが徐々に明らかになっている。トップアスリートの腸内フローラは、そうでない人よりも多様性に富んでいることはこれまでも報告されていたが、どの腸内細菌が運動パフォーマンスに関与し、どのようなメカニズムで影響を及ぼすかまでは明らかにされていなかった。
今回の結果について研究グループは、バクテロイデス・ユニフォルミスをターゲットとした「プロバイオティクス」(腸内で働く微生物や微生物を届ける食品)や「プレバイオティクス」(微生物を増殖させる作用を持つ食品)などの技術によって「人の運動パフォーマンスを引き上げることができる可能性を示唆するもの」としており、スポーツ分野や飲食料品分野への応用に期待を示している。
同研究は慶應義塾大学先端生命科学研究所の福田真嗣特任教授(順天堂大学特任教授・神奈川県立産業技術総合研究所腸内環境デザイングループリーダーなどを併任)を中心に、アサヒグループHDの独立研究子会社であるアサヒクオリティーアンドイノベーションズ(茨城県守谷市)と青山学院大学による共同研究として行われた。