コロナ直言(25)

遅きに失した5類移行、理念なき議論やめよ 大阪公立大教授・城戸康年氏

産経ニュース
大阪公立大大学院医学研究科の城戸康年教授
大阪公立大大学院医学研究科の城戸康年教授

《政府は新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けを、5月8日に季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げる。コロナは現在、1~5類の分類とは別に危険度が2番目に高い2類相当の「新型インフルエンザ等感染症」に規定されている》

(5類への)移行の時期は遅きに失しているとしか言いようがない。何のために分類しているのか。理念なき分類といえる。

そもそも2類相当にしているのは封じ込めのため。令和2年当初はその理念通りだったが、適さないほど感染症が広がった。なぜ2類相当なのかという科学・医学に適しない理念を維持し、なし崩しに社会が変わらざるをえなかった。国会や行政の明らかな怠慢だ。

2類相当か5類かという議論を見ていると、あまりにも手続き論に終始している。まずはコロナを社会がどう扱っていくか、という理念が先に来るべきではないか。

この3年間を振り返ると、ポイントの一つは濃厚接触者に対しての私権制限がどこまで許容されるかだった。有効性の高いワクチンを打ちたい人が打てたときにはもう私権制限に値しないというのが妥当な判断で、(令和3年夏の)東京五輪後が変わるべきタイミングだった。そうでなければ、何のためのワクチンキャンペーンだったのか。

濃厚接触者の私権制限を行わないということは、濃厚接触者もしくは無症候性ウイルス保有者からの感染を受け入れなければならないことを意味する。そこで初めて、社会がこの感染症をどう扱うかという理念の骨格ができる。これを抜きにして、全ての話は進まない。

ワクチン接種の公費負担はいつまで続くか。そしてワクチンの有効性はどこまで期待できるか。すでに4回目以降の接種に関しては、打つ打たないのメリットの差は小さく、明らかな利点を主張できなくなっている。

研究は続ける必要はあるが、今後は1年に1回程度の接種の推奨に変わってくるのではないか。おそらくそれまでに1、2年の移行期間がいる。そこまでは公費負担が続くだろう。

《5類移行に伴い、コロナ患者が現在の発熱外来よりも幅広い医療機関で受診できるよう、政府は段階的に体制を拡大する》

病院の問題も議論しなければならない。社会は感染を許容しなければならないようなフェーズに入ったが、病院ではある程度のプロテクト(防御)が必要。医療従事者も無症候者からの感染を許容できるのか。これには明確な答えが出ないので、(コロナの)分類に関わらずしばらく苦しむ問題だろう。

コロナを巡る議論は、国民皆保険制度をどうするかという問題と同質だ。皆保険制度は、行きたい病院にいつでも行けるというのがメリットだった。その半面、市民が診断を受けたり医薬品にアクセスしたりするには原則、病院に行く必要があった。ただコロナ下で受診制限が起き、医療全体へのアクセスが制限されることになった。アクセスさえ奪われる状況は果たしてどうなのか。

いまの日本の医療は(空きベッドは許されない)高回転の経営が求められてきた。一方、感染流行時にはコロナ用病床には余裕がないといけないという全く逆のことが求められた。このギャップこそが、パンデミックや急激に医療需要が増えたときに対処できなかった主な理由だ。いまの日本の医療システムは感染拡大に対応するにはデメリットが多い。

病院の「ゼロコロナ政策」を緩和する方法の一つは、元気な人の診断・治療を薬局に開放すること。医療へのアクセスは格段によくなり、病院の負荷や医療需要は減るだろう。薬局で診断薬を販売し、陽性の場合は薬までセットにすることで、病院に行く必要がなくなる。限られたベッドという資源をいつ、誰に分配すべきか。いま求められるのは医療の民主化だ。(聞き手 前原彩希)

きど・やすとし 大阪公立大大学院医学研究科教授。博士(保健学)、医師。早稲田大理工学部を卒業し、東京大大学院医学系研究科博士課程修了。令和4年から現職。専門分野は新興・再興感染症学など。アフリカにおける結核、エイズ、マラリアの三大感染症や熱帯病を研究。近年は新型コロナウイルス研究にも取り組む。

感染拡大から4年目に入り、「5類」に引き下げられる新型コロナ対策は大きな転換点を迎える。医療費の公費負担や医療体制のあり方、そしてマスクの着脱。移行後に乗り越えるべき壁について、専門家が「直言」する。

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