【ワシントン=大内清】バイデン米政権やドイツのショルツ政権がそれぞれ主力戦車を供与する見通しとなったことは、ウクライナが春にも開始するとみられる大規模な反攻作戦に重要な意味を持つ。戦車の機動力と火力を活用することで、ロシア軍の前線を破ることが可能になると期待されるためだ。
昨年2月に始まった露軍の全面侵攻に対し、ウクライナ軍は主に旧ソ連時代のT72戦車のほか、米国から供与された対戦車ミサイルや榴弾砲などで抗戦。バイデン政権はこれまで、旧共産圏のチェコなどが保有するT72をウクライナに移転するのを支援する一方で、米国から主力戦車「エイブラムス」を供与することには慎重姿勢を示してきた。戦闘がエスカレートすることへの懸念に加え、同戦車が戦場で露軍に奪われた場合の技術漏洩などを警戒してのこととみられる。
こうした中でバイデン政権が方針を転換させたのは、戦車供与について「米国との連携を重視する」としてきたショルツ政権の背中を押すためだ。
戦闘地域で戦車が威力を発揮するのは、高い機動力と強力な火力を持つことによる。ウクライナ軍には、戦車を中心に他の戦闘車両や歩兵部隊などを連携運用することで、露軍が要塞化している東・南部の前線の突破が可能となり、都市部を含む広い地域の制圧につながるとの計算がある。
実際に米軍は今月中旬、ドイツにある訓練施設でウクライナ兵500人を対象に、こうした連携戦術の訓練を開始。米公共ラジオ(NPR)は、ウクライナ軍が戦車を活用して露占領下の東部ドネツク州マリウポリ周辺まで部隊を進出させることができれば、ロシアが一方的に併合を宣言している南部クリミア半島への補給を断つことが可能になる、とする軍事専門家の分析を伝えた。
ただ、戦車の供与だけでは戦況を大きく左右する「ゲームチェンジャー」にはならないとの指摘も多い。ウェスリー・クラーク元北大西洋条約機構(NATO)最高司令官はCNNテレビで24日、戦車を有効に運用するには「長距離ドローンなど空からの支援が必要になる」と語った。