「浩宮殿下の英国留学は親密で友好的な日英関係のハイライトです」
天皇陛下が皇太子時代にオックスフォード大学へ2年間の留学後の昭和60年11月、サッチャー英首相が中曽根康弘首相に送った書簡が英国立公文書館に残されている。陛下の留学で日英関係が深化したといえる。
英国の君主として歴代最長の70年間在位し、昨年崩御したエリザベス女王が昭和天皇から立憲君主のあり方を説かれたこともある。
昭和50年5月に初来日した女王は、接伴した外務省の内田宏元儀典長に最も印象深かったことについて「陛下(昭和天皇)にお目にかかり、教えを受けたことです」と答えた(季刊誌『皇室』平成22年夏号)。
女王は「女王は孤独なもの。重大な決定を下すのは自分しかいない」と語ったほか、「この立場が分かっていただけるのは、天皇陛下しかおられません」「教えを受けられるのはこの方しかいないと信じて地球を半周して来ました」と述べたという。
昭和天皇も、皇太子時代の20歳だった大正10年に訪英し、女王の祖父ジョージ5世の謦咳(けいがい)に触れた。
国王は慈父のような物腰で温かくもてなし、昭和天皇は国民とともにある英国王室の近代的な家族の絆と温かみに接した。
昭和54年、昭和天皇は栃木県の那須御用邸で「ジョージ5世から立憲政治のあり方について聞いたことが終生の考えの根本にある」(『昭和天皇実録第十七』)と回顧された。
ジョージ5世から学んだ立憲君主のあり方を昭和天皇が、初来日した孫の女王に指南した形だ。
その固い絆を裏付けるのが英国の最高勲章のガーター勲章だ。エドワード3世が1348年に騎士道精神を実践するため創設し、叙勲はガーター騎士団の一員になることを意味する。
英国に功労のあった人物と各国元首に贈られ、本人の死亡後は返還する。外国人への叙勲は、キリスト教徒である欧州の君主が原則で、現在、デンマーク、スウェーデンの君主ら8人が保持する。キリスト教徒以外の外国君主で贈られているのは日本の天皇だけだ。
19世紀後半にオスマン、ペルシャ両帝国のイスラム教徒の皇帝3人に叙されたが、死亡後に返還した。
明治39年、日英同盟の更新で英国が明治天皇に贈ったのを初の例として、4代の天皇に授与された。
昭和天皇は、日英が干戈(かんか)を交えた昭和16年12月、剝奪されたが、46年に再び贈られた。これは675年の歴史の中で唯一の例だ。
5月にチャールズ国王の戴冠式(たいかんしき)がある。オックスフォード留学中、天皇陛下と12歳離れた国王は兄のような存在だったのかもしれない。英国留学中の思い出を記した著書『テムズとともに』英訳本巻頭に国王の推薦文が掲載されている。
「日英には、皇室と王室との固い絆を反映した親密な友情がある。徳仁殿下がオックスフォードで楽しく過ごされたことを拝読できることに感謝します」
女王は令和元年、天皇の即位後、最初の訪問先として英国に招請していた。
天皇陛下の公式訪問と、国王戴冠式へのご参列が実現すれば、5代目のガーター勲章が贈られる可能性がある。チャールズ国王との40年来の交流の上に、日英の新たな友好関係が築かれることを期待したい。(論説委員)