「第42回大阪国際女子マラソン」は29日に号砲を迎える。パリ五輪代表選考会となるMGCの前哨戦ともいえるレース。新たな決意を胸にスタートラインに立つ選手の姿を追った。
鮮烈デビュー
「全力を出して、やり切ったと思えるレースをしたい」。今回の大阪国際が8回目のマラソンとなる安藤友香(ワコール)は何度も繰り返す。初マラソンだった2017年名古屋ウィメンズで2時間21分36秒をマークし、鮮烈なデビューを飾ってから約6年。「自分から攻めたレースはしたことがない」とのジレンマを抱えているからだ。
19年に東京五輪代表選考会として開催された「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」もそうだった。満足のいく練習が積めていても、いざスタートラインに立つと不安や恐怖に襲われた。「苦しい場面で自分と戦うことから逃げ、放棄したレースになった」。2時間36分29秒の8位と惨敗。東京五輪マラソン代表の座は遠かった。
福士から刺激
初マラソンの後は、両手を下にだらりと下げる走法が〝忍者走り〟と称され、現役最速ランナーとしても脚光を浴びた。「それで天狗(てんぐ)になってしまった自分がいた」。17年に初めて出場した世界選手権(ロンドン)では世界の強豪に歯が立たず、挫折を味わった。
転機になったのは、19年のワコール移籍だった。「テレビで見る、すごい選手」だった福士加代子(現ワコール陸上部アドバイザー)が練習で情けない自分をさらけ出している姿を目の当たりにした。五輪に4大会連続で出場している選手でも、弱い自分と向き合っていた。「自分に勝った選手が強い選手なんだと分かった」。常に目の前の自分と向き合っていくことを心に誓い、練習で聞く音楽も「逃げない」ことをテーマにした歌詞を選ぶようになった。
ワコールに移籍してから5000メートル、1万メートル、ハーフマラソンで自己ベストを更新。東京五輪には1万メートルで出場できた。ただ、マラソンだけは6年前の自分を上回れずにいる。
「パリ五輪はやっぱりマラソンで出場したいので、MGCに向けて何かを得られるレースにしたい。失敗してもいいや、ぐらいの感覚で思い切って挑戦できれば」
苦しい場面で前へ攻めるレースができたとき、過去の自分も超えることができる。(丸山和郎)
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あんどう・ゆか 1994年3月16日生まれ、岐阜県出身。愛知・豊川高を卒業後、時之栖(ときのすみか)、スズキ浜松ACなどを経て2019年にワコールに入社。今回が8回目のマラソンで、自己ベストは2時間21分36秒(17年名古屋ウィメンズ)。一昨年の東京五輪は1万メートルに出場して22位。