岸田文雄首相は23日の施政方針演説で、政権が急速に傾斜する「増税路線」について明確な説明を避けた。防衛力強化の増税は大枠を言及するにとどまり、「異次元の少子化対策」を掲げる子供関連予算の倍増では早くも雲行きが怪しい財源問題について具体的に触れず、今後の負担増に向け誠実に理解を求めたとは言い難い。議論を尽くし国民の懸念を払拭できるのか、国会論戦はその試金石になる。
「将来世代に先送りすることなく、今を生きるわれわれが、将来世代への責任として対応していく」
首相は演説でこう述べ、防衛力強化の財源の一部として令和9年度段階で1兆円強の増税を行う考えに理解を求めた。だが、法人、所得、たばこの3税で確保する方針や、実施時期が未定という生煮え状態について詳しい説明はなかった。
また、少子化対策は出生率の反転に向け政策強化の具体策を検討していると説明したが、民間で5兆~10兆円規模とも試算される子供関連予算倍増の財源確保については、「社会全体でどのように安定的に支えていくかを考える」とするにとどめた。
少子化対策の財源を巡っては、自民党の甘利明前幹事長が将来的な消費税率引き上げに言及するなど、年明けから議論が紛糾。政府は「当面触れることは考えていない」(松野博一官房長官)と火消しに躍起だ。
仮に消費税に手を付けた場合、防衛増税の法人税、所得税と合わせて「基幹3税」を全て引き上げる増税ラッシュになる。ただ、予想される児童手当の拡充などで必要な巨額の予算を、他の手段で安定的に賄えるのかも見通しは立たない。
防衛増税は首相が昨年12月に突然方針を打ち出して押し切ったが、自民党では増税圧縮に向け国債を借り換えながら60年で完済する「60年償還ルール」の期間延長による資金捻出案も浮上し、揺り戻している。国民的な理解を得られているとは到底言い難い状況だ。
首相が負担増に説明を尽くさない背景には、4月の統一地方選を前に増税の議論を避けたい思惑もにじむ。昨年の参院選でも防衛増税は与党公約に入らなかった。選挙後に今度は少子化対策で増税を持ち出すような手が2度も通用するほど甘くはない。(田辺裕晶)
「こどもファースト」で関連予算倍増 岸田首相施政方針演説 通常国会召集