岸田文雄首相は23日に行った施政方針演説で、これまでの原発政策を見直し、脱炭素社会への転換を目指す「GX(グリーントランスフォーメーション)」の実現に向け、官民の力を結集していくことを改めて強調した。ただ、原発政策の転換をめぐっては、事前の検討が不十分との指摘は根強く、今国会では与野党間での激しい論戦が予想される。
首相は演説でGXについて、①脱炭素②エネルギーの安定供給③経済成長-の3つを同時に実現する「一石三鳥」の取り組みとした上で、「GXという経済、社会、産業、地域の大変革に挑戦していく」と述べた。
GXの実現には発電の7割を占める火力発電の割合を下げることが欠かせない。そこで、政府が昨年末に取りまとめたGXに向けた基本方針では、原発を「最大限活用する」と明記。東京電力福島第1原発事故以降、10年以上停滞していた原子力政策を大きく前進させた。
具体的には原子力規制委員会の審査対応などで停止した期間を運転期間から除外し、実質的に60年を超えて運転できる制度を新設。また、これまで「想定していない」としていた原発の新規建設にも踏み込み、廃炉が決まった原発を対象に次世代型革新炉に建て替える方針も示した。
一方、政府は令和32(2050)年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロとする目標を掲げており、この目標は原発の活用だけでは達成できない。
実現には今後10年間で官民合わせて150兆円の投資が必要になるとされ、企業の取り組みを促すために、二酸化炭素(CO2)の排出に負担を求める「カーボンプライシング(CP)」も導入する。まずは政府が20兆円規模の「GX経済移行債(仮称)」を発行して民間の投資を後押しし、8年度以降から段階的に導入するCPで得た資金を償還財源に充てる仕組みも考えた。
得られた脱炭素化に関する知見や技術は海外に輸出して国内の経済成長にもつなげる方針で、首相は「アジアの脱炭素化を支援していく」と強調した。(蕎麦谷里志)
「こどもファースト」で関連予算倍増 岸田首相施政方針演説 通常国会召集