クラウドファンディング(CF)がおもしろい。
主にインターネットで寄付を集める仕組みだが、サイトをのぞくと、ああしたい、こうしたいとアピールが花盛り。
昨年、奈良の法隆寺が景観を美しく保つ維持費などへの支援を募ったら、1億円を超えて話題になった。聞けば30歳前後の若い世代が多く、社会貢献意識が高いのだという。
日本で寄付文化は根付かないといわれてきたがそうでもないな…と思っていたら地元で気になる取り組みに出合った。モノは、アートだ。
アートと資金
我田引水で恐縮だが、きっかけは京都市京セラ美術館で開催中の「アンディ・ウォーホル・キョウト」(産経新聞社など主催、2月12日まで)。
ポップ・アートの旗手と呼ばれた著名アーティストだけに若者の来場者も多く、収入源の一つのグッズ販売も順調。展覧会というのは知名度がものをいうが、そこで、同じ会場で次に行われる展覧会が資金集めのためのCFを行っていることを知ったのだった。
タイトルは「跳躍するつくり手たち」展。アートやデザイン分野を軸に国内外で活躍する美術家、作家など20の個人とチームの作品を紹介する同館の自主企画だ。CFに挑戦するにあたり同館はこう言う。
「集客と収益重視の展覧会だけでは美術館としての使命を十分果たせているとはいえない。独特な視点や表現の作家や作品を広く紹介することも美術館の大切な役割の一つです」と。
コロナ禍と財政難
公立美術館が外部に運営費の一部を求めるケースはまだ少なく、先行事例になれば、ともいう。京都市は財政難で新型コロナウイルス禍もあって今後も厳しいのは確実だ。その中で活路を見いだそうと取り組んだのがCFによる資金調達だった。
実は請け負う運営会社レディーフォー(READYFOR、東京)でもアートに着目し、これに特化した組織を5年前に立ち上げて力を入れてきた。
これまでの累計プロジェクト数は60件以上、支援金額も約8億円に上るという。その中心となってきたのが文化部門リードキュレーターの廣安ゆきみさん。「公立美術館はまだまだ伸びしろがある」と話す。
昨年の事例を紹介してもらうと、熊本市現代美術館の交流拠点リニューアルなどで約1200万円(当初目標は500万円)、横浜市の帆船日本丸や無線日誌の修繕・修復費などにも約1200万円(同300万円)が集まった。
広島県呉市の大和ミュージアムが一昨年に開催した「戦艦『大和』の主砲削り出した大型旋盤、消失から救え」プロジェクトなどは、当初目標を大きく超え、約2億7千万円を集めた。
こちらは貴重な歴史の遺物であるという要素に加え、ふるさと納税型で税の控除が受けられることも大きかっただろう。
ただ、こうした取り組みには資金以外にももう一つ、大きなねらいがあるようだ。「知ってもらうこと」、そして「ファンづくり」である。
土壌づくり
少し、海外に目を向けてみる。三井住友トラスト基礎研究所のリポート「博物館・美術館運営における民間活用」(2020年)によると、大英博物館の収入内訳のうち寄付・遺贈は約17%。米・メトロポリタン美術館の寄付・助成は約16%を占める。
もちろん欧米とは文化も歴史的土壌も違い直接比べられないが、いまだ日本は寄付文化では発展途上といえそうだ。
一方で、CFを通じた芸術文化支援に取り組んできた廣安さんは、ネットで気軽に寄付をする人が増える一方、支援を受ける側に「一世一代のプロジェクトといった意識がまだまだ強いのですが、もっと気軽に考えて挑戦してほしい」と笑う。
比較的少額で幅広く集められるのが醍醐味(だいごみ)だ。最近は寄付に応じて提供されるリターンのないコースをあえて選ぶ人も多く、毎年決まった額を寄付する継続型支援も注目されているという。お礼より、自分の満足感ということだろう。
さて京セラ美術館。CFは今月いっぱいだが先ごろようやく目標金額の半分の150万円に届いたばかり。意義を読み芸術やアートの未来へ、小さな投資を考えてみてはいかがだろう。
形はないが「豊かな気持ち」というプレゼントは必ずもらえる。(やまがみ なおこ)