「医療知識を悪用した完全犯罪」 ALS事件の元医師への検察側論告詳報 父親殺害で懲役20年求刑

産経ニュース
ALS事件の構図
ALS事件の構図

難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)患者への嘱託殺人罪などで起訴された元医師、山本直樹被告(45)は20日午前、父親に対する殺人罪に問われた裁判員裁判の公判で懲役20年を求刑された。これまでの公判では、殺害計画の中止を直前に決めたが、知人で医師の大久保愉一(よしかず)被告(44)=同罪などで起訴=が「独断で実行した」として共謀を否定し、無罪を主張している。公判は20日午後に結審する予定で、判決は2月7日。この日の検察側論告の詳報は次の通り。

〈事案の概要と争点〉

平成23年3月5日に母親の淳子被告(78)、大久保被告と共謀し、父親の靖さんを厄介払いするため殺害した。争点は、3人によって殺害されたか否か。

〈父親の死は、殺害が原因であること〉

父親は精神疾患がある以外は健康に問題はなく、退院から7時間以内に病死や自然死する状態ではなかった。

被告らは(大久保被告とは別の)知人医師の名前で死亡診断書を偽造し、火葬許可を得た。もし病死であれば正規の手続きをとればよかったのに、そうしなかったのは医師に見せることのできない死に方をしたからだ。被告ら3人の手元にいる間に、父親が殺害されたということに疑いの余地はない。

〈殺意が明確なメールで殺害計画を練り上げ、計画通りに進行した〉

噓の理由で父親を退院させることや、殺害場所の選定、死亡後の手続きまでの計画の情報を3人は悪意や殺意に満ちたメールで共有していた。「抹殺計画」といった言葉や、生命を奪う具体的な方法を議論しており、殺害への意欲が一貫して表れていた。

3月5日は退院から火葬まで事前の計画通りに物事が進んだ。予定外のことは何もなかった。

〈3人で計画を実行して初めて了解可能な事後の言動がある〉

事件後の3人はメールで、打ち上げの日程や「(父親)ざまーみろ」「(大久保被告に)感謝しろよ」といった内容をやりとりしていた。

淳子被告の逮捕前の供述調書では、父親の死亡後、山本被告から「さすが大久保、年数ある医師だけあって手早かった」と説明を受けたとされる。これは計画の完遂に向けての共犯同士の会話であり、計画通り3人で殺害したことを示すものだ。大久保被告が勝手に殺害するなど、予定外のことが起こったことを示す言動はない。

〈大久保被告が勝手に殺害したとする山本被告の主張について〉

山本被告らの意思に反して殺害すれば警察に通報される恐れなどがあり、他人にばれない完全犯罪としたい大久保被告にとってリスクが大きすぎてあり得ない。

大久保被告に計画の中止をいつ、どのように伝えたという重大な場面について山本被告の供述は場当たり的に変遷している。作り話であることを示すものだ。また、父親の死亡後は大久保被告の指示で、山本被告は淳子被告に死亡届を書かせた。意思に反して殺害されたのであれば、大久保被告の指示に沿う行動をするのはおかしい。

〈山本被告の役割〉

殺害場所となるマンションの手配をはじめ、退院後に父親を大久保被告との待ち合わせ場所に連れていき、遺骨をアフリカまでもっていって遺棄するなど、中心人物として重大不可欠な役割を果たした。

〈情状面と求刑〉

医師として医療知識や立場を悪用して殺害を実行し、誰にも怪しまれることなく火葬までやり遂げ、10年以上発覚しなかった完全犯罪を遂げた事案だ。殺害の態様や死因は不明だが、痕跡を残さず医療行為にみせかけて殺害したと推察できる。他に類を見ない特異で、非難の程度が際立っている犯行だ。

山本被告は終始、中心人物として計画に積極的に加担した。大久保被告が殺害方法を指南したとはいえ、大久保被告のみが主導したとはいえない。

以上の事情から、山本被告には懲役20年が相当だと考える。

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