老後のためにコツコツとためてきた「資金」をあの手この手を使い言葉巧みにだまし取ろうとするのが特殊詐欺の犯罪グループだ。昨年11月末までの都内の被害額は62億円にも上る。警視庁と産経新聞・ニッポン放送が展開する特殊詐欺根絶に向けた共同キャンペーン「STOP!! 特殊詐欺」では、実際に特殊詐欺の被害に遭った人や家族、犯人からの電話を受けたことのある人などから、被害の実態を聞いた。
だましの手口
「振り込みをしたわけじゃないですよ。お客さまは書類がないですから、受け取る口座ですとか支払う設定とかを登録しただけです」「受け取り番号ですよ。額じゃないですね。番号だから長いですよ。マイナンバーみたいなもんです」
ATMで高額な振り込みをしたのではないかと心配する女性に対し、電話口の男は、丁寧な口調で笑い声交じりにそう答えた。
警視庁のホームページに公開されている特殊詐欺犯の実際の音声だ。男は区役所を名乗って医療費の還付金手続きとして女性をATMへ誘導。電話で指示をしながら振り込みをさせた。
警視庁は被害防止のためにこうした音声の公開のほかにユーチューブや体験型シミュレーターなどさまざまな方法で手口を紹介。だが、犯罪グループも成功率を上げるために相手を信じ込ませるような新たな文言を次々に編み出している。
冷静な判断奪う電話
電話に出た高齢者などが焦って冷静な判断ができなくなるように話を進めるのも特殊詐欺の特徴だ。
都内在住の60代の女性は、電話で「横浜のデパートで外国人があなた名義のカードで買い物をした」と告げられた。女性はそのデパートのカードは持っていないと答えたが、犯人側は「偽造カードなので持っていなくても名前が書かれていた」と言い、女性は一度は信じたという。
女性は犯人側から「銀行協会」に電話するよう言われ、教えられた番号に電話すると「カードを取り換えたほうがいい。これから(自宅に)行き、カードを作ります」と言われたという。女性は「近くの銀行で自分で手続きをする」と伝えると電話は切れた。直後に銀行に行くと、銀行員から詐欺だと言われ、だまされかけていたことに気付いた。
女性は「私は絶対被害に遭わないと思っていたが、突然電話がかかってくると、自分のカードが偽造されたのかな、使われたら困ると思ってしまった」と打ち明ける。
あの手この手、次々
犯罪グループは、還付金詐欺やオレオレ詐欺だけではなく、思いがけない手口で襲い掛かってくる。
都内在住の元警視庁担当の男性記者は、父親が特殊詐欺の被害に遭った。男性によると、父親が使用していたパソコンに「ウイルスに侵入された」と表示され、表示の連絡先に相談したところ、さまざまなソフトをインストールされ、代金を請求されたという。
立て替え費用としてまず1万円を請求された。その後、振り込みではなくコンビニエンスストアで、プリペイド式電子マネー「グーグルプレイカード」を買って裏面にある番号を教えてほしいと指示され、計50万円分をだまし取られたという。
父親はレジで並んでいる際に、若い男性客から「これ詐欺ですよ」と忠告されたが、信じ込んでいたため、そのまま支払いを済ませたという。
男性は警視庁担当記者として特殊詐欺の取材もしており、家族で特殊詐欺について話し合うこともあったという。父親もこれまで何度かオレオレ詐欺の電話を撃退していた。
男性は「父親が被害に遭い、被害をゼロにするのは難しいと感じた。犯人側はいろいろな手口を開発しているのでなかなか逃れにくい」と話す。その上で「家族でこまめに連絡し合うことが被害軽減に役立つのではないか」と訴えた。
警視庁はホームページで特殊詐欺犯の実際の音声を公開している。https://action.digipolice.jp/list/sound
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特殊詐欺の被害の実態は、ニッポン放送のポッドキャスト「ニッポン放送・報道記者レポート2023」で、ニッポン放送の藤原高峰記者が詳しく報じています。https://podcast.1242.com/show/hodo-report/