新型コロナウイルス禍で社会問題となった女性の自殺の増加は、子供を産んだ女性たちの間でも例外ではないようだ。日本産婦人科医会の調べによると、新型コロナの流行が始まった2020年以降、妊産婦の死因で「自殺」の割合が従来の2倍以上に増加している。東北大学などが行った調査によると、自殺に追い込まれる妊婦たちに共通するハイリスク要因として、産前のうつ病の既往以外にもアルコールやタバコへの依存などの「使用障害」、統合失調症などが浮かび上がっており、専門家は「産後の自殺予防にはうつ病の既往だけでなく、幅広い精神疾患に注目する必要がある」と警鐘を鳴らしている。
新型コロナ流行前後で「自殺」の比率が約2倍に
周産期の現場では、医療技術の発展とともに出産時の大量出血に伴う母体死亡が減少傾向にある一方、自殺による死亡比率の増加が問題となっている。特に新型コロナの流行が始まった20年以降の変化は顕著で、日本産婦人科医会が行った調査によると、19年までは最多でも14%程度だった「自殺・偶発」による死亡が、20年には29%、21年には26%と3割近い比率を占めている。こうした自殺増加の傾向は日本だけでなく、先進国での母体死亡原因の2割近くが自殺によるものという報告もある。
自殺企図がある患者に対する早期介入の手がかりをつかむため、東北大学と東京医科歯科大学による共同研究グループは、診断名や処置の内容、入院時・退院時の患者の状態などが記録された「DPCデータ」という医療データをもとに、産後1年間の自殺企図と関連性の高い産前のリスク因子の調査を行った。