新型コロナウイルス(COVID-19)の感染から約1年が経過した人のうち、約半数が倦怠感などの後遺症を訴えているとする論文を、大阪公立大学大学院医学研究科・臨床感染制御学の井本和紀(わき)病院講師らの研究チームが発表した。感染した際の重症度にかかわらず後遺症が残る恐れもあり、重症化リスクが低い若年層やワクチン接種を済ませた人も予防に努めることが重要だと注意を促している。
新型コロナ感染による後遺症や長期的症状は「Long Covid」と呼ばれ、せきや倦怠感だけでなく記憶力や集中力の低下、精神的な不調や神経の障害などが起きてしまう恐れがあるとされている。研究チームによるとLong Covidに関する報告は海外から発信されたものが中心で、日本における集団については2020年に63人(そのうち日本人は56人)を対象にした調査報告が発表されるなどにとどまっており「後遺症を診察するとともに、後遺症について研究を行っている施設・医師はほとんどいない状況」だという。
そこで井本氏らは、大阪公立大学医学部附属病院などの大阪の5つの病院で2020年に新型コロナだと診断された人と各病院に入院した人を対象に、感染から約1年後の後遺症に関するアンケート調査を実施。回答者は合計285人で、年齢の中央値は60歳、男性が57.2%だった。
約1年後の後遺症について質問したところ、全体の56.1%が1つ以上の後遺症が残ったと答えた。感染時の症状が無症状や軽症だった人の52.9%、中等症から重症だった人の57.5%が後遺症が残ったとしており、大きな差はなかった。
現在の後遺症について聞くと、無症状と軽症者は倦怠感、抜け毛、集中力や記憶力の異常、睡眠障害が多く、中等症から重症だった人は倦怠感、呼吸困難感、味覚障害、抜け毛、集中力や記憶力の異常、睡眠障害、関節の痛み、頭痛が多かった。全体では倦怠感(20%)が最多で、記憶力の異常(19%)、集中力の異常(16%)、抜け毛(16%)が続いた。日常生活に支障をきたす症状も含まれているため、研究チームは新型コロナの後遺症でQOL(生活の質)が低下しかねないと懸念している。
また、重症度や持病などの危険因子と後遺症の関係を分析したところ、重症度が高かった人は喀痰や下痢、高血圧の人は咽頭痛、脂質異常症の人は目の充血などの後遺症と関連していることが分かった。その一方で、倦怠感、味覚・嗅覚の異常、抜け毛、睡眠障害は重症度に関係なく残りやすい傾向がみられた。
アンケートと分析の結果を受けて研究チームは「重症度と関係なく残りやすい症状があることが明らかとなった」と結論づけている。後遺症の治療法は確立されていないため、今後も研究を継続する必要があるという。