東京消防庁の昨年中の119番通報受付件数が速報値で約103万6000件だったことが同庁のまとめで分かった。現行の統計を開始した平成27年以降で、100万件を超えたのは初。新型コロナウイルスの感染「第7波」や昨夏の記録的な猛暑で救急出動が増加したことが背景にあるとみられる。一方で「エアコンを止めてほしい」などの不適切な通報もあり、同庁は指令体制の逼迫(ひっぱく)を避けるため、適切な利用を呼びかけている。
東京消防庁によると、昨年の受付件数は103万6645件で前年の89万8319件から約15%増加。これまでの最多は令和元年の約99万2000件だった。
通報の増加を受け、東京消防庁は人員を増やして対応。担当者は「119番は順次受け付けている。つながりにくい場合も電話を切らずに待ってほしい」と話している。
3割が「緊急性なし」通報
「廃油の処理をどうすればいいか」「アパートの鍵をなくした」-。これは昨年、東京消防庁に寄せられた119番通報の一例だ。緊急用という目的から外れた119番にそぐわない通報は、全国で全体の約3割にも上り、コロナ禍で負担が増加している救急体制にさらなる追い打ちをかけている。
東京都千代田区の東京消防庁災害救急情報センター。都内の119番通報を受け付け、救急隊や消防隊に出動指示を下す消防活動の司令塔だ。今月12日、指令担当者の卓上のタブレット端末には119番通報の受信を示す赤い点が絶え間なく表示されていた。
顕著に増えたのは、1日の感染者が4万人を超えたこともあった昨夏の感染第7波。第8波に突入している現在も当時と同じような状況になっているという。
「以前なら、1回対応すれば次の通報まで一呼吸はあるものだったが、今はずっと通報が届き続ける状態」。総合指令室の担当者はこう明かす。
119番通報の増大で担当者の負担は重くのしかかる。人手が足らない時は、休憩時間まで割いて対応に当たっているほか、過去に指令担当を経験した職員を臨時で指令業務に投入することもあるという。
厳しい現場にさらに追い打ちをかけるのが不適切な通報だ。
指令担当者「火事ですか、救急車ですか」。
通報者「救急車じゃないんですけど、アパートの階段のところに変な人が座ってるんですよ」。
これも過去に東京消防庁にあった119番通報だ。こうした不適切通報は全国で生じており、総務省消防庁によると、令和2年の全国の119番受付件数793万2672件のうち、27・5%にあたる218万682件が緊急通報から外れた「間違い」「いたずら」などの電話だった。
近年は、スマートフォンの緊急通報機能の誤作動による「いつのまにか119番」も起きている。自動車事故などを念頭に、衝撃を感知すると自動的に119番に通報する機能だが、スマホが落ちたはずみや、歩行時の動きなどの外の刺激によって反応することもある。仮に誤って通報されても誤作動と判明すれば現場に出動しないが、東京消防庁では確認が取れず現場に出動したケースもあった。
「病院に行った方がよいか」「救急車を呼ぶべきか」迷ったときは♯7119へ
一方、コロナ禍で増えたのが「陽性と診断された。どうすればいいのか」「病院を探してほしい」といった相談だ。不安感からの通報ではあるが、緊急用の119番にはそぐわない。東京消防庁総合指令室の佐々木愛郎指令副参事は「問い合わせや相談などに対応すると、緊急の通報に対応できなくなる」と危機感を募らせる。
急激な体調悪化やけがなどで通報するか判断に迷った際には、救急安心センター事業「#7119」を活用することが求められている。「#7119」にかければ、原則24時間体制で医師や看護師らが対応。病気やけがの状態を聞き取り、救急搬送の必要性を判断するほか、応急手当ての方法なども紹介するというものだ。総務省消防庁によると、昨年8月時点で首都圏や関西など19地域で運用されており、国内の人口の47・5%をカバーしている。#7119以外の番号で救急電話相談などを行っている地域もある。(内田優作)