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恐るべし、アパッチ族 「日本三文オペラ」開高健(新潮文庫)

産経ニュース

たまたま手にした島田雅彦さんの自伝的私小説『君が異端だった頃』を読んで、この小説を知った。作品執筆のため大阪へ取材に行った作家の主人公がガイドブックにしたのが『日本三文オペラ』。新世界の界隈に始まるこの小説と同じように島田さんも大阪の下町を巡礼して発想を練り上げ、作品にしたという。これは俄然、興味が湧いた。私には初めての開高作品だ。

舞台となるのはまだ戦後風景の残る大阪の砲兵工廠跡地。戦時中、現在のJR京橋駅から森ノ宮駅にかけての広大な敷地に陸軍の軍需工場があった。戦争末期、爆撃を受け、壊滅する。その廃虚に侵入して埋もれた鉄屑を盗む通称「アパッチ族」とそれを取り締まる警察の攻防を描いた小説である。

主人公の浮浪者、フクスケがアパッチ族にスカウトされて組織の一員となり、この稼業にのめり込む姿が圧巻で開高の文章はこの混沌と猥雑の世界を冗舌に、生々しく描き切る。大阪弁と書くのがはばかられるような露骨な表現もこの小説の魅力だろう。生へのむき出しの欲望があふれ、エネルギーとたくましさを感じた。

組織は親分以下、先頭やザコ、渡し、もぐりなどと呼ばれる役割に分かれていて、昼間は酒食、惰眠を貪り、夜ごと鉄屑の「鉱山」へ、ブツの窃盗を繰り返す。ある日、仲間の一人が鉄屑の中から「銀板」を発見したことから事態は急展開する。

昭和34年に刊行された作品だが現在の秩序と安寧を誇る日本にかつてこんな事実があったのかと驚いた。他にアパッチ族を描いた小松左京さんらの小説も知ったのでぜひ読んでみたい。今や環状線の車窓から眺めても小説のような時代があったことは想像すらできない。

京都市右京区 佐々木清次(67)

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