ロシアによるウクライナ侵略が越年し、北朝鮮は従来にない頻度でミサイル発射を重ねた。尖閣諸島周辺で領海侵入を繰り返す中国は、武力による「台湾統一」を否定しない。日本をめぐる安全保障環境が格段の厳しさを増す中、主要各紙の元日付社説は、昨年末に決まった防衛力の抜本的強化など、日本が取るべき備えや国際社会での役割について提起した。
通常の「主張」に代えて論説委員長の署名論考を掲載した産経は、防衛力の抜本的強化が岸田文雄政権で進められている理由とその意義を「日本が努力しなかったら、戦後初めて戦争を仕掛けられるかもしれない。戦争したくないから抑止力を高めようとしているんですよ」とかみくだいた書き出しで解説した。
反撃能力の保有や5年間の防衛費総額43兆円などを盛り込んだ国家安全保障戦略など安保3文書を「安保政策の大きな転換で岸田首相の業績といえる」と評価したうえで、「今年は3文書の抑止力強化措置を講じる最初の年だ。令和5年度予算成立なしには防衛費増額も始まらない。関係者の努力や同盟国米国との協力が重要だ」と強調した。
一方で一部野党やメディアが主張する「先制攻撃になる恐れ」などの反対について、「理由なく相手を叩(たた)く先制攻撃が国際法上不可なのは自衛隊も先刻承知だ」と一蹴し、「反撃能力の円滑な導入を論じてほしい」と説いた。
読売も「備える力」の重要性を訴えた。「うかつに手を出したら手痛い反撃にあい、損害がわが身に及ぶとわかっていれば、無謀な攻撃に踏み切る可能性は低くなる。万一に備える防衛力の強化こそが、カギとなる」とし、「その備える力を、いま最も必要としているのが日本である」と論じた。
ロシア、中国、北朝鮮という日本周辺の3カ国が独裁体制を固めて日本への挑発行為を繰り返していることを取り上げ、「これまでの、『迎撃』本位の防衛体制では対応しきれない。日本を取り巻く安全保障の環境が一変したのだ」と指摘した。そのうえで「政府が『反撃能力』の保有など、防衛政策の大転換となる新しい安全保障政策を決定したのは当然だ」と断じた。
原発の新増設方針も含めたこれら政策転換の決定過程に異を唱えたのは毎日だ。同紙は「看過できないのは、危機を口実にした議会軽視である。日本では、専守防衛に基づく安全保障政策の大転換が、国会での熟議抜きに決定された。国民的議論を欠いたのは原発の新増設方針も同様だ」と批判した。
日経は「岸田文雄首相は昨年末に相次いで決めた防衛力強化や原発新増設などの大きな政策転換について、国民に丁寧に説明し理解を得る努力が必要になる」と主張した。
朝日は戦禍で暮らすウクライナの人々の願いや訴えを詳細に紹介するとともに、先人が模索し続けてきた「国家の暴走を止めるための仕組み」が機能しない現状を憂える主張を掲載した。
「眼前で起きている戦争を一刻も早く止めなければならない。そしてそれと同時に、戦争を未然に防ぐ確かな手立てを今のうちから構想する必要がある」とし、「英知を結集する年としたい」と述べた。ただし、岸田政権の安保政策への言及はなかった。
日本は今年から国連安全保障理事会の非常任理事国を務め、5月には議長国として広島での先進7カ国首脳会議(G7サミット)を主催する。日経は「政権発足時に『分断から協調へ』を掲げた岸田首相の真価が問われる年になる」とし、読売も「平和を再構築する作業を始めねばならない」「日本はその先頭に立つべきだ」と訴えた。(長戸雅子)
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■主要各紙の年頭の社説
【産経】
・年のはじめに/「国民を守る日本」へ進もう
【朝日】
・空爆と警報の街から/戦争を止める英知いまこそ
【毎日】
・危機下の民主主義/再生へ市民の力集めたい
【読売】
・平和な世界構築へ先頭に立て/防衛、外交、道義の力を高めよう
【日経】
・分断を越える一歩を踏み出そう
【東京】
・年のはじめに考える/我らに「視点」を与えよ
(いずれも1日付)