トリクルダウンとは、富裕層や大企業が潤えば恩恵が低所得層や零細企業を含めた社会全体に浸透する考え方で、安倍氏が目標に掲げたものだ。
さらに、岸田首相は「この問題に終止符を打ち、賃金が毎年伸びる構造を作る。インフレ率を超える賃上げの実現をお願いしたい」と訴えた。これに呼応し、経団連など財界も賃上げに前向きの姿勢を示したが、重要なのは、労働者の7割を雇用する中小企業がこれを実現できるか否かだ。
岸田首相は、国内外の情勢を読み解く政治的センスを欠いているのではないか。かつては、安倍氏が何かと助言して補ってきたが、今や、そのような指南役もいない。
首相周辺にも不安がある。安倍政権では、今井尚哉秘書官が舞台裏で政権運営を支えたが、現政権でその役割を担うべき嶋田隆秘書官は、もっぱら5月の広島サミットに没頭していると聞く。もうひとりの政務秘書官は、岸田首相が周囲の反対を押し切って任命した長男・翔太郎氏だ。
岸田首相が年頭会見で「異次元の少子化対策」などと〝大風呂敷〟を広げたのは、解散総選挙を意識してのことか。選挙を重ねるほど政権は強くなるとされるが、それをほのめかして求心力を得ようとしているのか。
浮つき、跳ね返った政権運営で蹴り飛ばされる国民は、たまったものではない。 (政治ジャーナリスト)