新型コロナウイルス禍が本格化した2020年には、野生のタヌキとニホンアナグマの採食行動(餌を探し食べる行動)が変化したとする論文を東京農工大学と米イリノイ大学の共同研究チームが発表している。外出自粛で人間の屋外活動が低下したことを受けて昼間に採食活動を行う機会が増え、タヌキについては1回あたりの採食時間が顕著に長くなった可能性があるという。
コロナ禍で人間の活動が減った影響により、野生動物の目撃情報が増えるなどの異変が起きたとされている。しかし、コロナ禍より前の情報が限られているため、野生動物の具体的な変化に関する報告は少ないという。
研究チームは「最も重要な行動の一つ」である採食行動に着目。東京都三鷹市の森林に生息するタヌキとアナグマがイチョウとムクノキから落ちた果実を食べる様子をカメラで撮影して、餌を食べる頻度や時間がコロナ禍の前後でどのように変化したかを調べた。
コロナ禍前にあたる2019年の採食行動はタヌキが397回、アナグマは144回。2020年はタヌキが411回、アナグマが173回で、この2年では頻度に大きな違いはなかった。
だが、2019年の採食行動がほとんど夜間に観察されていた一方で、2020年は昼間に採食する機会が増えていた。その傾向が顕著だったのがイチョウの果実を採食するタヌキだ。1時間あたりの平均訪問回数の推移を比較すると、2019年は深夜に急増してピークの午前0時を境に激減していたが、2020年は午前6時から正午にかけてゆっくり増加・減少する格好だった。
また、鼻先を地面につけて果実を探したり、口を動かして果実を食べたりする1回あたりの採食時間を比べると、両種とも2020年の方が長くなる傾向がみられた。この点においてもタヌキの変化が大きかった。
餌場について調べると、2019年は結実量(果実の実り)が多い木よりも藪などで見通しが悪い木の根元を選ぶ傾向があったのに対し、2020年はムクノキの果実を採食するアナグマを除くと結実量の多い木が選ばれていた。研究チームは、人間に見つかる危険性が低下したことが背景にあるのではないかとしている。
先行研究によれば、都市部のタヌキとアナグマは人間に見つからないようにすることで社会に適応するとされているが、今回の研究結果からは隠れるだけでなく、柔軟に効率よく生きている姿も浮かび上がる。研究チームは、少子高齢化で人間の活動が減る地域で野生動物をどう管理、保全するかを考える上で重要な知見になると成果を強調した。