安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件で、殺人容疑で送検された山上徹也容疑者(42)の鑑定留置が10日、終了した。奈良地検は鑑定の結果を踏まえ、山上容疑者に刑事責任能力があると判断。勾留期限の13日までに殺人などの罪で起訴する見通し。
山上容疑者の身柄は10日午後、鑑定留置されていた大阪拘置所から捜査本部のある奈良県警奈良西署に移送された。
山上容疑者はこれまでの調べに、旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)に入信した母親が教団に約1億円を献金したことで生活が困窮したと説明。教団への恨みを募らせ、「教団とつながりがある安倍氏を狙った」などと供述していた。
こうした動機には不可解な面もあり、裁判で刑事責任能力が争点となる可能性があることから、地検は昨年7月25日から鑑定留置を実施。地検は、山上容疑者が一昨年春ごろから銃を自作し、試し撃ちで威力を調べるなど計画的に犯行準備を進めていた点も重視し、精神鑑定を踏まえて責任能力があると判断した。
県警はこれまでに山上容疑者宅などから作りかけを含む手製銃7丁や火薬類を押収。山上容疑者は火薬を自ら調合し、事件前日には奈良市の教団関連施設が入るビルに試し撃ちをしたとも供述しており、武器等製造法違反や火薬類取締法違反、建造物損壊などの疑いで詰めの捜査を進める。参院選の街頭演説を妨げたとする公選法違反容疑については、妨害の意図があったかどうか慎重に調べる。
期限は13日、本格聴取で詰めの捜査
山上容疑者の鑑定留置が終了したことで、鑑定留置中の5カ月超にわたって中断していた聴取が再開される。県警と地検は起訴に向けた詰めの捜査を進める方針だ。
「聴かないといけない話はたくさんある」。県警の捜査幹部はこう話す。
山上容疑者の鑑定留置中、捜査は容疑者不在で行われ、県警は供述の裏付けや証拠品の精査を進めてきた。昨秋にはレーザー光線を当てて距離を測る専用機材を使って、事件当時の詳細な位置関係を確認。また、押収した自作銃の構造を詳しく調べ、殺傷能力の鑑定を実施した。
捜査関係者によると、県警や地検は山上容疑者が「母親が入信し、家庭が困窮する原因となった」として恨みを募らせた旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の多数の関係者から事情を聴取。母親の多額献金の実態を調べたほか、山上容疑者の母親や学生時代の友人、知人らからも話を聴き、動機の解明を進めた。
ただ、ある捜査幹部は「容疑者不在ではできないこともあった。まだまだ捜査は尽くせていない」と話す。県警は13日の勾留期限まで本格的な聴取を行うとともに、証拠品の鑑定も継続。追送検を視野に捜査を進める。
山上容疑者の鑑定留置期間を巡っては、地検が捜査上の必要があるとして延長を2度請求したが、弁護側がその都度延長の取り消しを求めて準抗告し、最終的に奈良地裁が今月10日までとした。
鑑定留置中、山上容疑者の身柄は大阪拘置所に移され専門医が定期的に面談。関係者によると、山上容疑者は「同じ質問ばかりでうんざりしている」などと話していたという。